音楽サービスの未来は「バンドル型」が中心になる?

先月末、孫正義さんが会長を務める米国のモバイル・キャリアSprintが、契約者にSpotifyのプレミアム版を特別価格で提供すると発表しました。価値あるサービスが安く利用できるのはユーザ目線から見ても朗報ですが、こうした提携スタイル(つまり他サービスへのバンドル)は、ストリーミング音楽サービスを財政的に安定させるという意味でも重要な意味を持ちそうです。

いや、もしストリーミング音楽が長期的な展開を望むなら、それはすべて他サービスへのバンドルになるでしょう。

Spotify、Beats Music、Pandora …どれも海外を中心に愛されているサービスですが、いずれも赤字を垂れ流している状況にあります。

その理由ですが、まず各社は巨大な音楽カタログのために数百億円のライセンス料を支払っているから。ユーザを獲得するために最高のライブラリを揃えるのは当然の施策であり、そのための経費は必須コストとなるわけです。

では実際にどの程度のユーザ数を獲得できているのか? Pandoraの月間アクティブユーザは 7,500万人、そして、 Spotifyは 2,400万人。しかし残念なことに、彼らはユーザから十分な対価を得るための金脈をまだ探り当てられていません。

Pandoraは、圧倒的なユーザ数を武器に 2,900万ドル(約29億円)の損失をなんとか取り戻そうとしています。2000年ごろに設立された同社は、もちろんスタートアップ企業と同じノリでは立ちゆかないからです。

一方、Spotifyは株式非公開のため、どの程度の利益を生み出しているかは分かりません。ただ、昨年レッド・ツェッペリンのカタログ独占権を獲得したり、今年はじめに音楽データ企業のThe Echo Nestを買収したことで相当な出費をしていることは確実です。

こうした投資はプロダクト改善やマーケット・シェア獲得という側面においては意味があるのですが、売上のカーブに変化をもたらすわけではありません。正直、Spotifyが競争力を維持するためには、現在の価格のまま更にサービスを拡充することを余儀なくされるでしょう。

音楽サービスの財政問題は、何もこの2社に限ったことではありません。同じデジタル音楽サービスのRdioは昨年、自社の経営および競争力を存続させるために「重要な」資産を一部手放し、キュムラス・メディアで無料のストリーミングラジオを提供開始しました。そして、1月は新規入会にかなり注力したにも関わらず、Beats Musicのユーザ数が上回っていたことを示唆するレポートが公開されています。

音楽サービスの未来は「バンドル型」が中心になる?

ビジネストークはここで終わりにしましょう。これまで挙げてきたような音楽サービスは本当に良いサービスですよね。面白いし、合法だし、たいがいの曲が手に入る。デジタル音楽ファイルの売上が落ちていてもストリーミング音楽サービスの利益が拡大しているのには、きちんと理由があります。サービスも凄いし、自発的に月額費用を払ったり音声広告を聞いたりする人たちも増えている。ストリーミング・サービスはお金を稼げないわけじゃない。ただ、今の売上では不十分というだけです。

法を犯すことなく便利に音楽を聴き、かつアーティストにも還元していけるような音楽サービスを存続させるためにはどうすればいいか?

そのサービスが自社コンテンツやバンドTシャツ、コンサートチケットなどを販売して売上を立てていく道も考えられるかもしれません。でも、それよりも資金繰りを安定させていくなら「バンドル契約」による他サービス提携という選択肢になるのでしょう。少なくとも今のところは。

たとえば、SprintとSpotifyが発表したディスカウント契約の座組しかり、AT&TとBeats Musicが今年始めに発表した業務提携しかり。通信キャリアの巨大なユーザベースが追い風となって、音楽サービスはある程度自立できるレベルまで月額課金ユーザを増やせるかもしれません。もちろん、キャリアと契約を締結した時点である程度の売上は見込めます。

あるいはほかの可能性として考えられるのは、定額サービスを完全にやめて巨大なサービス・プロバイダーのパッケージに組み込まれることでしょう。たとえばAmazonがインスタント・ビデオと同じようなスキームでプライム会員のサービス内容に音楽サービスを追加するという噂もあります。あくまで「サービスを生かす」ことが目的になってしまいますが、この方法なら企業全体として売上が立てば音楽サービス自体で収益を上げる必要がなくなります。なおBeats Musicを運営するBeats Electronicsは現在、アップルによる買収話も持ち上がっています。

音楽業界も既存サービス・プロバイダーも、ビジネスの枠組み自体を見直す時期にきているといえそうです。でも、大企業が他のサービスを自社の付加価値としてバンドルしていくやり方は、それほど斬新ではないですよね。Amazonプライムがテクノロジー業界最強の商材になる前も、ケーブル会社は様々な番組をオンデマンドで配信してましたし。音楽業界も同じ道を辿ることになるのか、今その岐路に立たされていると言えるでしょう。

新サービスの追加が新規ユーザ獲得や古いユーザのりテンション向上に寄与することは言わずもがなです。もしSpotifyがSprintユーザ向けに無料開放されるとしたら、SprintはAT&TやVerizon、T-Mobileといった競合と戦う武器を手に入れたと言えるでしょう。

現状、音楽サービスが今のままでは存続の危機にあることは明白です。Spotifyをはじめとした音楽サービスは遅かれ早かれ資本金を使い果たしていくことになり、我々が住むブロードバンド・ワールドの楽園は少しだけその姿を変えるかもしれません。

Mario Aguilar - Gizmodo US[原文]

(Rumi)

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