新聞と携帯電話、どちらがより「生活に密着した情報ツール」なのだろうか(2022年公開版)

情報配信を行う媒体の多様化、特にインターネットに関連したデジタル技術の発展に伴い、紙媒体の相対的価値が減り、需要は漸減しつつある。またその媒体に載せるコンテンツを制作する業界内部における経年劣化、金属疲労的な実情の暴露機会も数多く、結果として価値をさらに押し下げている。それでは昨今、低所得層においても生活必需品として欠かせないと言われている、自らも主張している新聞は、本当に現在必需品たりえる存在なのだろうか。同じようにコンテンツを取得するツールとして今や生活必需品的な存在の移動電話(携帯電話。従来型携帯電話、スマートフォン双方を意味する。以下同)と併せ、総務省統計局が2022年2月に発表した家計調査報告(家計収支編)における2021年分平均速報結果の各種データを基に、現状を確認する。

次に示すのは二人以上世帯全体(勤労者(勤め人。無業者は該当しないが、他に役員や自営・自由業者も該当しない)世帯以外に、就業者が世帯にいない年金生活者世帯(年金も収入に含まれるので無収入ではない。貯蓄の取り崩しは収入ではない)も含む)における、世帯別新聞購読率・移動電話通信料支払率の、世帯年収別推移。さらに購読・支払世帯における支払額も算出した。なお今件では「新聞購読料支払世帯は月極での購入」「移動電話通信料を支払う世帯は携帯電話を所有している」前提で計算している。また単身世帯はデータが存在しないので精査は不可能。

まず料金の支払率、つまり実質的な普及率だが、新聞はおおよそ低年収の世帯の方が普及率が高い(250~300万円未満の層が一番高い)。ただし1000万円以上に限れば高年収の世帯の方が高い傾向も見受けられる。100%を超えている層がある場合、計算上は1世帯あたり2部以上か、月極以外にも単発で周期的に購入している世帯があることになる。ただし2021年ではそのような実例は確認できなかった。他方、携帯電話はおおよそ低年収の世帯ほど低普及率ではあるが、その差は200万円未満の世帯を除けば大きくても20%ポイント程度でしかない。

利用世帯の支払金額は、新聞ではほぼ一定。1紙あたりの月額料金にさほど差が無いこと、多くの購入世帯では1紙の購読であることを考えれば当然の話ではある。他方携帯電話は利用の仕方で費用が大きく変わる、子供のいる・いないなど世帯構成などによって世帯内所有台数が変わる、さらに利用している携帯電話の種類(従来型携帯電話かスマートフォンか)でも料金に大きな差が出ることから、おおよそ高年収の世帯ほど金額が上昇していく。

この結果のみを見ると、「新聞は低年収世帯においてはコンテンツ、情報取得のために欠かせない存在」との主張も間違っていないように判断できる。しかし二人以上世帯には勤労者世帯以外に就業収入が無く年金と貯蓄の取り崩しで生活をしている世帯(年金生活者)も多分に含まれていること、年金生活者は世帯年収こそ低いものの、生活費の少なからずを資産の取り崩しで充当している実態から、実生活様式と額面上の世帯年収との間には、勤労者世帯と比べて差異が大きく出ることを考える必要がある。

そこで実質的な年金生活者世帯を除外できる、勤労者世帯に限り、上記グラフを再構築したのが次の図。

利用者世帯の支出金額動向はさほど変わりはなく、おおよそ新聞は一定、携帯電話は高年収の世帯ほど上昇していく。ただし低年収の世帯ではそれなりに高い値が出ており、科刑上で無理をしているようすがうかがえる。利用世帯における世帯年収別の利用内情(使い方)は、勤労者世帯に限ってもそれほど変わりがない。他方支払率=普及率は一部イレギュラーが生じているものの、新聞は多分に高年収の世帯ほど高い値、そして携帯電話は世帯年収による差異があまり出ていない。200~250万円未満の世帯で低めに出ている程度。

つまり現役就労層に限れば「低年収の世帯における生活必需品」は、新聞と携帯電話の二択ならば新聞よりもむしろ携帯電話であり、新聞は優先順位としては低いことが推定できる。そして逆算すれば、新聞を「低年収の世帯における生活必需品」的な立ち位置に押し上げているのは、二人以上世帯においては非勤労者世帯、おおよそ高齢年金生活者世帯が該当していることとなる(若年層では年金生活者は存在しえない)。

実際、世帯主の年齢階層別で区切り直すと、まさにその通りの結果が出る。

世帯主の年齢とともに新聞の支払率=普及率は上昇していく。他方、携帯電話は70歳以上でやや下がるが、60代まではおおよそ9割台をキープしている。広範囲の世帯に普及浸透しているか否かの観点では、はるかに携帯電話の方が上となる。

なお高齢者世帯で携帯電話の利用者世帯における利用料金が大きく下がっている。これはスマートフォンではなく、利用料金が安上がりで済む従来型携帯電話を利用している人が多いのが要因。また、世帯構成員が少ない(同一世帯内に子供がいない場合が多い)のも要因。

もとより同じ「コンテンツ、情報を取得するツール」的立場にある新聞と携帯電話だが、厳密には前者がコンテンツそのものを創生する業界、企業をも多分に包括しているのに対し、携帯電話はあくまでも純粋なインフラであり、そのインフラに乗る形で配信されるコンテンツまでは今件のような普及率関連の話では内包されない。同一次元で比較するのは、多少無理がある。

とはいえ、金銭面やメディア論の上で、両者がよく比較されるのも事実。特に世帯収入面で難儀している人において、情報伝達のためのツールは何が普及しているのか、考えさせられる実情には違いない。

新聞と携帯電話、どちらがより「生活に密着した情報ツール」なのだろうか(2022年公開版)

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