「物流の2024年問題」とは何か、ドライバーの収入が下がる?荷主側への影響は? 連載:「日本の物流現場から」|ビジネス+IT

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  • 「物流の2024年問題」とは何か、ドライバーの収入が下がる?荷主側への影響は?

    連載:「日本の物流現場から」

    トラックドライバー不足はもはや社会課題だ。原因の1つは、トラックドライバーが長時間労働ゆえに不人気であることにある。2020年度におけるトラックドライバーの平均年間労働時間は、大型トラックドライバーで2,532時間、中小型トラックドライバーで2,484時間(全日本トラック協会調べ)。全産業の平均が2,100時間であるから、いかにトラックドライバーが長時間労働であるかが分かる。状況を改善すべく、2024年4月からトラックドライバーの時間外労働時間上限が960時間に制限されるのだが、これも諸手を挙げて歓迎することができない事情がある。日本に住んでいる誰もが無関係ではいられない「物流の2024年問題」について、解説していこう。

    物流・ITライター 坂田 良平

    物流・ITライター 坂田 良平

    Pavism 代表。元トラックドライバーでありながら、IBMグループでWebビジネスを手がけてきたという異色の経歴を持つ。現在は、物流業界を中心に、Webサイト制作、ライティング、コンサルティングなどを手がける。メルマガ『秋元通信』では、物流、ITから、人材教育、街歩きまで幅広い記事を執筆し、月二回数千名の読者に配信している。

    <目次>
    1. 「物流の2024年問題」とは
    2. トラックドライバーの時間外労働時間、その現実
    3. 「物流の2024年問題」は、トラックドライバーの収入を下げる?
    4. 「物流の2024年問題」、荷主側への影響は?
    5. 「物流の2024年問題」解決の課題となる運賃の値上げ
    6. 誰もが無関係ではいられない、「物流の2024年問題」
     「物流の2024年問題」とは、働き方改革関連法によって、2024年4月1日以降、「自動車運転の業務」に対し、年間の時間外労働時間の上限が、960時間に制限されることによって発生する諸問題に対する総称である。 2019年4月1日に施行された働き方改革関連法では、以下3つをポイントとしている。 働き方改革関連法では、時間外労働の上限は、原則として月45時間、年360時間に制限され、労使間で36協定を結んだとしても、時間外労働は年720時間に制限される。働き方改革関連法は、大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から施行された。 だが、時間外労働の上限規制適用が、5年間、つまり2024年まで猶予された事業および業務がある。それが以下である。 自動車運転の業務、すなわちトラックドライバーやバスの運転手、タクシードライバーなどについては、働き方改革関連法が目指す時間外労働の上限規制に対し、あまりに実情がかけ離れているため、猶予が与えられたのだ。 結果、トラックドライバーに対しては、2024年3月31日までは時間外労働の上限規制はなし。細かい規制条件の記載は省くが、2024年4月1日以降は、36協定の締結を条件とし、上限960時間という、時間外労働時間の制限が施行されることになる。 なお、これでも働き方改革関連法の一般則、すなわちトラックドライバー以外の一般的な労働者における時間外労働の上限である720時間とは、240時間もの隔たりがある。この隔たりについて、働き方改革関連法では、「将来的な一般則の適用について引き続き検討する旨を附則に規定」、すなわち「将来的には、トラックドライバーも、時間外労働時間を年間720時間にするかもしれませんよ」と含みが持たせられている。 2020年に行われた厚生労働省の調査によれば、大型トラックドライバーの平均時間外労働時間は月当たり35時間、中小型トラックドライバーは31時間とあり、すなわち年間時間外労働時間は、大型トラックドライバーで420時間、中小型トラックドライバーで372時間となる。 「960時間という制限は、十分クリアしているじゃないか」── そう思う方もいるだろう。だが、これはあくまで平均であることに留意しなければならない。 厚生労働省が2020年10月から12月にかけて実施した、別の調査を紐解こう。繁忙期ではない、通常月における時間外労働時間について調査したところ、以下のようになった。 2024年4月以降の年間時間外労働時間制限:960時間に対し、1カ月の稼働日数を22日として計算すると、1日あたりの時間外労働時間は、約3.6時間となる。 つまり、「4時間超~7時間以下」+「7時間超」=18.3%は、960時間を超過することは確定である。ボリュームゾーンである「1時間以上~4時間以下:48.1%」の中にも、960時間を超過するトラックドライバーは含まれていると考えられる。 なお、この調査における調査対象は、以下の点で問題がある。 一般論ではあるが、企業規模の小さな企業ほど労働環境は悪い傾向にあるし、1社あたりの調査対象者を絞れば、結果が歪む可能性も高い。 なぜ、もっとまともな調査を実施しなかったのかと舌打ちをしたくなる不満を抑えて考えても、現状でも最低20%程度の運送会社が、2024年4月以降の時間外労働上限制限をクリアできていない──すなわち「物流の2024年問題」をクリアできていない可能性が高い。 「物流の2024年問題」とともに考えなければならないのが、月60時間を超える時間外労働に対する法定割増賃金率の引き上げである。 労働基準法においては、月60時間までの時間外労働に対しては25%以上、60時間を超える時間外労働に対しては50%以上の時間外手当を、従業員に対して支払う義務を企業に対して課している。ただし、これは大企業に対する義務であって、中小企業では猶予されていた。 だが、働き方改革関連法により、2023年4月以降、中小企業に対する猶予が撤廃され、月60時間超の時間外労働に対し、中小企業においても50%以上の時間外手当を支払わなければならなくなる。ちなみに、月60時間を1日に換算すると、約2.7時間となる。 1日に3.6時間以上の時間外労働が許されない上に、2.7時間を超えれば、これまでの倍額の時間外手当を支払わなければならなくなる。運送会社経営者の立場からすれば、これまで以上に時間外労働の抑制に向け、経営の舵を切るのは当然だろう。 割りを食うのは、これまでもらっていた時間外手当がもらえなくなる、トラックドライバーたちである。もちろん、基本給等をアップすることで、ドライバーの収入が減らないように配慮する運送会社経営者もいるに違いない。だが、すべての運送会社が、このような措置を取れるかと言えば、それは無理だ。 運送ビジネスは、典型的な労働集約型産業である。ドライバーの労働時間が減少すれば、それは運送会社の売上減少に直結する。時間外手当の支払いや、燃料代の支払いは減るだろうが、トラックの減価償却費など、減らないコストも少なくないことから、売上の減少は、結果として利益を圧迫する。 2019年度の決算を対象に行われた調査によれば、運送事業において、営業利益ベースで黒字を出している事業者は、37%しか存在しない。無い袖は振れないのだ。 ドライバーたちを大事に考える運送会社経営者であっても、2024年4月以降、それまでと同水準の収入を維持・保証できるかどうかは、とても難しい。 経営基盤の脆弱な中小運送会社では、ドライバーの収入を維持できず、2024年4月を迎える前にドライバーたちの離職を招く可能性もあるだろう。【次ページ】「物流の2024年問題」、荷主側への影響は?

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