重量100gを切るペン型インクジェットプリンタ「Selpic P1」
やじうまミニレビュー
やじうまミニレビューは、1つ持っておくと便利なPC周りのグッズや、ちょっとしたガジェットなど幅広いジャンルの製品を試して紹介するコーナーです。「Selpic P1」。ペン型で、本体は実測86g(キャップ除く)と軽量。iOSのほかAndroidも対応する「Selpic P1」は、どこでも手軽に印刷できるペン型のインクジェットプリンタだ。スマートフォンアプリで入力したテキストや画像、さらにはバーコード、QRコードなどをWi-Fiで本体へと転送し、筐体のヘッド部から印刷する仕組み。実機を試用する機会を得たので、その使い勝手を紹介する。
スマートフォンで入力したテキストを転送して印刷
本製品は、クラウドファンディングのIndiegogoで出資を募っている製品だ。パッケージは英語だが、連携するスマートフォンアプリやWebサイトの製品ページは日本語化され、日本語の印刷にも対応している。
筐体はやや太めのマーカーといった印象で、十分に「ペン型」と呼んで差し支えないサイズだ。先端にプリントヘッドがあり、USB Type-Cケーブルで充電して使用する。未使用時には添付のスタンド兼用キャップに立てておく仕組みだ。
Indiegogo発の製品。パッケージは英語そのままだが、裏面には(事業者名の表示がないものの)PSEのロゴ、および技適マークも印字されている同梱品。製品本体のほかインクカートリッジ(黒)、保管時に使うスタンド兼用キャップ、充電用USBケーブル、およびチュートリアル一式が用意される本体の先端にインクカートリッジを挿入して使用する。丸いボタンを押すとイジェクトされる利用時は人差し指の位置にあるボタンを押しながら印刷を行なう。連続稼働時間は3時間で、バッテリ残量はスマートフォンアプリ側で確認できる裏面。ステータス表示LEDを搭載した電源ボタンと、充電用のUSB Type-Cポートを搭載保管時およびスタンバイ時はスタンド兼用キャップを利用する利用にあたっては、インクカートリッジのフィルムを剥がして本体に取りつけたのち、電源ボタンを押して起動。スマートフォンにインストールした専用アプリとWi-Fiでペアリングすれば準備は完了だ。
テキストなどデータの入力はすべてスマートフォンアプリ側で行ない、本体へと転送する。アプリ上の転送ボタンを押すと、本体の電源ボタンが青く点滅し、完了すれば消灯する仕組みだ。
今回は第2世代iPhone SEにて試用。まずメール認証を行なったのち、デバイス(右のSelpic P1)を選択して次に進む。なぜか位置情報を要求されるデバイスの検索が実行される。検出されれば次の画面に進むWi-Fiへの接続を行なう。Bluetoothでないのが珍しいテキストを入力する。ちなみに改行は認識されず、1行につながった状態で入力する必要がある(後述)メイン画面。右下の転送アイコンをタップすると、入力したテキストが本体に転送される。ちなみにここで表示されているのがフォントの最大サイズ左から右へと滑らせて印刷。繰り返し印刷に向く
では印刷してみよう。本製品は自走式ではなく、用紙の上に本体を垂直に立て、人差し指の部分に配置されたボタンを押した状態で左から右へと自力で動かすことで、保存した内容がプリントされる仕組みだ。外見は異なるが、前回紹介した「RICOH Handy Printer」と使い方そのものは似ている。
プリントヘッドがある本体底面の手前にはローラーがあり、これを支えにして動かすので、印字面と一定の距離を保ったまま、スムーズに横へスライドさせられる。布のように伸び縮みする素材だと変倍がかかりがちだが、それ以外はゆがむこともなく明瞭に印刷できる。
本体先端のプリントヘッド。その下にあるローラーを印字面に当て、横にスライドさせることで印刷される印刷先となる素材の上に垂直に押し当て、左から右へとスライドさせる。かなり高速に動かしてもきちんと印字できる印刷完了。文字サイズ最大で高さ12.5mm(実測値)までの印刷が可能だ。解像度は600dpi実際に印刷している様子。人差し指の位置にあるボタンを押しながら、横書きの場合は左から右に、縦書きの場合は上から下へと動かす印刷が終わり、指を離すと、そこで1つの印刷ジョブが終了した格好になる。メモリはそのまま保持されるので、もう一度ボタンを押しながら本体を左から右へと動かすと、同じ内容が印刷される。
本製品はプレビュー画面もないほか、押し当てた位置と印字開始位置とが離れているため、一発ではなかなか成功しづらいが、こうした仕組みゆえ、納得行くまで何度も印字を繰り返して理想の形に近づけていける。入力内容をアプリ側で保存し、呼び出して印刷できるので、名前や住所などよく使うテキスト類は保存しておくとよい。
開始位置と印字位置の関係を把握するために、本体を置いた左上にマーカーで赤い印をつけてみる印をつけた位置から約2cmほど離れたところから印字が開始される。高さはほぼ揃っていることがわかるフォントサイズを最小にすると印字開始位置が左に寄るほか、印字位置がやや低くなる。このあたりのクセがやや把握しづらいなお印刷が未完了の状態でボタンから指を離すと、次にボタンを押して印刷をはじめたとき、続きから印字される。この仕組みをうまく使えば、長文テキストを行単位で折り返しながら印刷できる……のだが、必ずしも適切な区切り位置で中断されるわけではなく、文字の途中で途切れる場合もあるので、現実的にはあまり使い道がない。
メモリ容量は非公表だが、1,000文字を超えるテキストも受信できた。印字中に数百字を超えたところでリセットされ、再度最初から印刷されるという原因不明の症状が見られたが(文字数ではなく連続印字時間などに制限がある可能性もある)、現実的にこれだけの文字数を印刷することは考えにくいので、実用面で支障はないだろう。
大量のテキストを転送し、区切りながらの印刷も可能だが、文字の途中で区切られることもあるためあまり実用的ではないさまざまな素材に印刷できるが、実測12.5mmの高さ制限に注意
本製品のメリットとして、紙に限らず、布や木材など、さまざまな素材に印刷できることが挙げられる。インクジェット方式ゆえ素材によって向き不向きはあるが、据え置き型のプリンタでは通せない素材にピンポイントで印字できるのは、ほかに真似のできない芸当だ。
とくに本製品は、印刷にあたって必ずしもスマートフォンを起動させておく必要はなく、メモリの内容を繰り返し印刷するだけなら本体さえあればよいので、持ち物に名前を記入したり、業務用の梱包に型番を印字するなど、同じ内容をリピート印刷する用途では特に重宝する。
布にも印刷できるが、一度洗濯しただけで完全に消えてしまったので(前回の「RICOH Handy Printer」は数回洗ってもまだ痕跡が残っていた)、あまり実用的ではないCDへのラベル印字は現実的な使い道のひとつだろう段ボールへの直接印字にも対応する。垂直面に印刷できるのは強みだ縦書き印刷にも対応するほか、フォントの変更も可能だただしネックになるのが、印刷できる天地(高さ)が実測12.5mmという制限だ。1行だけを印刷するならば問題はないが、たとえば封筒に住所を印字しようとすると、郵便番号と住所と宛先の高さの合計を12.5mmに収めなくてはならず、現実的にはかなりつらいものがある。
宛先を4行にわたって入力してみた。この画面では何の問題もないようだが……実際に印刷すると天地12.5mmという制限ゆえ、このような極小サイズになる郵便番号を省いて3行にし、テキストエリアいっぱいまで拡大してみるこれならばギリギリ使えなくもないが、本音を言えばもう少し余裕が欲しいまた本製品は、入力したテキストや数字をQRコードやバーコードに変換して印刷する機能も備えている。垂直になった段ボールの側面にそのまま印字できるのは利点だが、分割印刷の機能はなく、前述の天地12.5mmという制限がそのまま適用されるため、印字されるバーコードのサイズは極小になってしまう。
とくに段ボールへの印字では、素材の関係でにじむことも多く、印刷後にきちんと読み取りのテストをしないと、印刷はできたもののバーコードとしては役に立たない可能性もある。
入力した数字をバーコードに変換する機能も備える。ちなみにテキストと違って拡大縮小はできないこちらも天地12.5mmの制限がネックだ。また段ボールのような素材ではにじみやすく、読み取りのテストは欠かせない。QRコードでも同様の状態になる設定画面では印字面の素材を選択できるが、あまり効果はない。特にプラスチックは表面で弾くので意味がない画像ファイルを読み込んで印刷することも可能だが、強制的に白黒二値の線画に変換されるためあまり使い道はないなお本製品のスマートフォンアプリはインターフェイスが独特で、使い始めはかなり戸惑う。たとえば、テキスト入力エリアは改行という概念がなく、行ごとに異なるテキストボックスを作って入力しなくてはいけないのが最たる例だ。前述の封筒の宛名は、見た目は3行になっているが、実際には1行のテキストボックスを3つ並べたものである。
このほか、フォントサイズの調整はスライダーで行なう仕様のため、上下に並べたテキストボックスでサイズで揃えるのに目視で調整しなくてはいけなかったりと、使い勝手にはかなり癖がある。文字装飾の機能はひととおり揃っているので、試行錯誤しながら慣れていくしかないだろう。
フォントサイズは左下のスライダーで調整する。数値でサイズを指定できないので、上下のテキストボックスでサイズを合わせたい場合に苦労するアプリは日本語化されているが、おかしな翻訳もちらほら消耗品の流通ルートが整備されれば面白い存在
ペン型のハンディプリンタは、いくつかの製品が市販されているが、法人向けで高価だったり、また日本語が利用できなかったりと、選択肢は決して多くない。本製品は、日本語も利用でき、かつIndiegogoでは55%オフの89ドルということで、割引なしでも2万円で入手できるのが魅力だ。
また本製品はカラーのインクカートリッジに交換すれば、カラー単色での印刷も可能だ。ブラック以外では、マゼンタ、シアン、イエロー、ライトマゼンタ、ライトシアンの5色が用意されているので、用途に合わせて利用できる。
標準添付のインクカートリッジ(ブラック)。交換すればほかの色での印刷も可能だ現時点では出荷がはじまっていないため、使い方の説明が不足しており(筆者が今回見つけられていない機能もまだありそうだ)、利用には試行錯誤が必要になるが、ほかにない使い方ができる製品なのは間違いない。消耗品の流通ルートが整備されれば、この種の製品の中では面白い存在になるだろう。