【第2部】子に出自は伝えたい、でも…情報あふれるネットに母不安

【さらされた部落リスト⑥衝撃編】

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 新型コロナウイルス禍で自宅学習が増えた。福岡市の女性(39)は、小学校低学年の息子2人がタブレット端末を操る姿を見ると、そわそわする。

 学校で「1人1台」となったタブレットは、有害サイトに接続できないよう設定されているが、インターネット空間の全てに制限の手は届かない。鳥取ループを名乗る宮部龍彦氏(43)が各地の被差別部落を撮影し、ネットで公開する動画も一部は閲覧できる。

 自分が関わる余地なく出自を知ったら-。母親が被差別部落の出身であると、息子たちはまだ知らない。

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 何なのこれ…。6年前、女性はパソコン画面に表示された自分の名前に目を見張った。「被差別部落の生まれ」とも書かれていた。

 タイトルは「部落解放同盟関係人物一覧」。解放同盟に所属する人の名前や役職、住所、電話番号などが列挙されていた。2016年3月、宮部氏が管理するウェブサイトに何者かが突如公開した。翌月削除されたが複製され、次々と個人情報が加えられていった。

【第2部】子に出自は伝えたい、でも…情報あふれるネットに母不安

 女性の欄には、引っ越して2年たたない自宅の住所が追加された。「一体、誰が…」。自宅近くで目に入る見知らぬ人の全てが、自分の身元を調べようとする人間に思え、震えた。

 「将来、結婚や就職で差別されるかもしれん。差別で自殺した人もおる」。10歳で母親から出自を聞いた時、ただただ怖くなった。

 「その時」は17歳でやってきた。タクシーに乗り、自宅の場所を伝えると「行けません」と降ろされた。「こんな地域、無くなればいいのに」。高校卒業と同時に地元を離れた。

 部落差別は追い掛けてきた。18歳、職場で親しい先輩に古里を話すと青ざめた表情になり、疎遠になった。19歳、出身を伝えず交際していた男性とその父親が、目の前で「被差別部落の人間が絶滅すれば差別はなくなる」と言った。人生に絶望し、自死も試みた。

 「少しでも差別をなくしたい」。そう思い直して20代前半で部落解放同盟に入り、講演活動を始めたが、親という立場になると「活動が子どもの出自をさらすことにならないか」という葛藤がついて回った。

 本名で人前に立つことはやめ、福岡市内の講演は基本的に断ることにした。

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 わが子に出自は伝えたい。いつ遭うとも知れない差別に「備え」はさせておきたいから。でも、いつ、どうやって。反応が怖い。地縁も血縁も呪った、かつての自分が頭をもたげる。

 宮部氏のネットを駆使した活動は止まらない。デジタルネーティブ世代の息子やその友人が、ふいに目にするリスクは常にある。

 日に日に不安は大きくなる。「嫌だ、嫌だ」。そんな感情しか出てこない。

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