ドラクエの隣で作っていた「ジーザス」や移植版「ゼビウス」の開発秘話、そして“芸夢狂人”氏が引退したのはなぜ?

[編集部]:1981年に投稿は終わったものの、翌年に「I/O」編集部から呼ばれて記事を書いてますよね。

[芸夢氏]:一回だけやりましたね。もうイヤだと言ったんですが、今回だけ書いてくれと言われまして。

[三津原氏]:その後、もう一度だけ投稿も。

[芸夢氏]:そうそう。プログラムを持ち込んだら「え!?」って(笑)。載せてはくれたんですが、あまりいい顔はしていなかったですね。

[三津原氏]:でも、表紙には「芸夢狂人復活」と書かれてましたよね。

[芸夢氏]:それがイマイチだったから。やっぱり、1年ブランクあるとダメ、あの当時の1年は大きいね。

株式会社ハル研究所取締役所長 三津原敏氏PasocomMiniプロジェクトの仕掛け人にして、大のレトロパソコンフリークでもある。若かりし頃には多くの雑誌、書籍掲載プログラムを打ち込み、解析して腕を上達させ、職業プログラマの道へ進んだ

[編集部]:実際に打ち込んで遊びましたけど、おもしろかったですよ。

[芸夢氏]:ちょっと古めかしいけれど、おもしろいでしょ?ゲームセンターで稼働していたのがその半年くらい前で、それから作りました。あの後、すごい人が大勢出ましたよね。私は、一番よいところを取った(笑)。一人で全部できる時代でしたが、あれを何人かで組んでプログラミングしていたら、ケンカになって終わり。規模や版権の問題が出てくるし、絶対に誰かが「こんなのやりたくない!」と言い出すに決まっている。私は、グループはダメ。参加者みんながマニアだから、自分のパートだけはなんとかしたいと思って妥協しないのでムリなんです。だからこそ、よい時に引退したかなと。

[三津原氏]:あの時代は、芸夢狂人さんは輝いていた人ですよね。

[芸夢氏]:ピッタリ止めてよかった。あのままいたら、うやむやに。

芸夢狂人(本名:鈴木孝成)1980年に「I/O」へハイレベルなプログラムを投稿し、その完成度の高さから一躍注目を集める。同誌での活動期間は約1年ほどで、その後はエニックスより「芸夢狂人の宇宙旅行」、「アラレのJump up」、「ゼビウス」を発売したほか、「ジーザス」、「ジーザス2」にもかかわる

[三津原氏]:でも、それは本職の医者があったから?

[芸夢氏]:いや、本職も暇だったからできたことです。

[三津原氏]:コンピュータ関係の職業に進もうとは思わなかったんですか?

[芸夢氏]:あんな難しいものをやろうとは思いませんでした(笑)。

[三津原氏]:投稿していても!?

[芸夢氏]:これはあくまでも趣味(笑)。まともなコンピュータなんて、絶対やりたくないですよ。

[三津原氏]:「ジーザス」は、グループで作った商用タイトルですよね。

[芸夢氏]:「ゼビウス」はゲームが好きだったから、やってもいいと思いましたけれど、「ジーザス」はイヤイヤやっていました(笑)。頼まれたので……。

エニックスから1987年に発売された「ジーザス」は、コマンド選択式のアドベンチャーゲーム。プログラムを担当したのが芸夢狂人氏で、スタッフロールには本名、鈴木孝成(TAKANARI SUZUKI)の表記がある。なお、ミニゲームとして同氏作の「スペースマウス」が収録されている

[三津原氏]:コンピュータで食べてこう、という意識は?

[芸夢氏]:まったくなかったです。コンピュータはムリだと。一日に何時間も寝られないような仕事は、ずっと続けるのはムリ。でも、私のせいでコンピュータ方面に進んだ人も大勢いたようで、気の毒なことをしました(笑)。

[三津原氏]:いやいや、芸夢狂人さんがいなければ今の業界、1割くらいの人がいないかもしれないですよ(笑)。

[芸夢氏]:ねえ、罪なことをしたもんだね。

ドラクエの隣で作っていた「ジーザス」や移植版「ゼビウス」の開発秘話、そして“芸夢狂人”氏が引退したのはなぜ?

[三津原氏]:ちなみに、なぜ芸夢狂人という名前に?

[芸夢氏]:覚えていないんだよね……たまたま思い付いたのかなと。

[三津原氏]:芸夢狂人さんとルリタテハさんとFALCON.Sさんは、どれが最初なんですか?

[芸夢氏]:芸夢狂人が最初。移植時に、名前を変えていました。

[三津原氏]:名前のセンスもよかったなと思うんですよね。

[芸夢氏]:今から思えばそうだね。

[編集部]:後のインタビューでは“げいむきよと”と呼ぶという話も。

[芸夢氏]:本当はそのはずでした、狂人じゃないんだから(笑)。とは言ったものの、もうどうでもよいんです。適当で問題ないです(笑)。

[三津原氏]:ちなみに、これまでに作ったゲームの中で、一番好きなタイトルや気に入ってる作品はあります?

[芸夢氏]:みんながよいと言うから、「スペースマウス」かな?(笑)。ほかは動きが早いからキツいですよね。

芸夢狂人氏が自作の中でイチオシ(?)という「スペースマウス」

[三津原氏]:「スペースマウス」は、場所によっては敵が来ないので……。

[芸夢氏]:待てる。あんまり待つと時間が来ちゃいますけど。

[三津原氏]:その時間も、すごく長めに設定されていましたよね。そう言えば、「スペースマウス」のストーリーは後付けですか? それとも先付けです?

[芸夢氏]:後付け。SF少年で、本をたくさん読んでたから、SFチックなストーリーになっています。「宇宙英雄ペリー・ローダン」シリーズも読んでいましたけれど、辛くて途中であきらめました。

[編集部]:だから宇宙ものが多いんですね。

[芸夢氏]:SF宇宙ものが好きなんです。

「スペースマウス」もPasocomMini PC-8001にプリインストールされている

[編集部]:「ルナシティSOS」も、前置きにそれっぽいことが書いてありますよね。

[芸夢氏]:SFマガジンも読んでましたし、前置きは宇宙ものでちゃんと考えていました。スペースオペラがよいよね。

[編集部]:その集大成が、「芸夢狂人の宇宙旅行」に!?

[芸夢氏]:一応。でもあれは、過去の作品を全部足しただけでもあります(笑)。

エニックスからパッケージ販売された「芸夢狂人の宇宙旅行」。なお、この作品はPC-8001mkII用なので「PasocomMini PC-8001」には収録されていない

[三津原氏]:前回の80mkII会(数十人が数カ月に一度PC-8001mkIIなどを持ち寄り一日遊ぶ会)に芸夢狂人さんが来られるということで、「芸夢狂人の宇宙旅行」をみんなでクリアしようという目標でプレイしていたら、(「PasocomMini」ディレクターの)郡司がクリア。

[芸夢氏]:ビックリしましたね。各ステージの内容が、全部決まってるとは知らなかった……。確かに、ランダムだったら絶対終わらない(笑)。一度クリアすれば。次からはそのコース通りにプレイすればクリアできるよね。コース図は極秘にしておかないと(笑)。

[編集部]:「芸夢狂人の宇宙旅行」をクリアした人は、日本中に数十人くらいしかいないのでは?

[芸夢氏]:そうかも。

[編集部]:デバッグが大変だったのでは?

[芸夢氏]:大変でしたよ。でも昔の作品の集大成なので、ある程度できている作品の箇所はデバッグが緩くても大丈夫でした。

[編集部]:PC-8001でもPC-8001mkIIでも、PC-8001界隈のユーザーにとって芸夢狂人さんは、ゲームをたくさん作ってくれるということで、ありがたい人だったわけですよね。

[芸夢氏]:ねえ(笑)。NECさんから、いろいろもらってもよかったよね(笑)。

[三津原氏]:芸夢狂人さんのおかげで、PCGも盛り上がりました(笑)。

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