『VOGUE JAPAN』12月号、編集長からの手紙。
「先生と呼べる人のいる幸せ」を、最近よく感じます。実際に「先生」と呼んでいなくても、心のなかで「師」と仰いでいたり、そこまで大げさでなくとも、その生き方や何気ない言葉から星屑のように不意に輝く「教え」を感じられる存在。そんな人を誰もが少しずつ持っているのではないでしょうか。私にとって大人になってからの「先生」といえば、編集者の仕事を始めたときに出会った、アートディレクターの仲條正義さんです。資生堂の企業文化誌『花椿』のアートディレクションに40年以上にわたって携わり、資生堂パーラーのパッケージや松屋銀座のロゴマークをデザインなさいました(作品集『仲條 NAKAJO』の発行を祝して、Vogue Japanウェブサイトで仲條さんのインタビューを行いましたので、そちらもぜひ御覧ください)。仲條さんから教えていただいたことを簡単な言葉でまとめることは至難の技ですが、あえていくつか表現するならば─デザインと雑誌の抜き差しならない関係、人の生きる“世界”を見る面白くて鮮やかな「切り口」、そして「ファッションとは何か」を考え続ける意思。それは決して“授業”のような知識ではなく、日々の仕事のなかで訳がわからぬまま必死で、かつ何よりもワクワクしながら、「先生」の言葉を、眼差しを、動きを、転びながら追いかける“若造”の時間のなかに積み重なってきた、うごめく「思い」のような感覚です。