“開発を終わらせる”哲学から生まれるゲーム制作。17年にも及ぶ「軌跡」シリーズを振り返りながら日本ファルコムが「何を大事にしているのか」を近藤社長に聞く

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今回は同シリーズを手掛ける日本ファルコム株式会社代表取締役社長の近藤季洋氏に、過去作の思い出や新作の開発秘話、そして「軌跡」シリーズと日本ファルコムの今後についてなどお話を伺った。

“開発を終わらせる”哲学から生まれるゲーム制作。17年にも及ぶ「軌跡」シリーズを振り返りながら日本ファルコムが「何を大事にしているのか」を近藤社長に聞く

 日本ファルコムといえば、日本のパソコンゲームの黎明期である1980年代前半から、40年以上にわたってゲームを作り続けてきた老舗であり、とりわけ『ドラゴンスレイヤー』、『ザナドゥ』、『ソーサリアン』といったRPGには定評がある。【この記事に関連するほかの画像を見る】 21世紀に入るまで、PCを中心としたゲーム作りを続けてきた日本ファルコムだが、2000年代中盤からはPSPやPS3といったプレイステーションフォーマットに主力を移すこととになった。その際の原動力となったのが、2004年の『英雄伝説 空(そら)の軌跡FC』から始まるRPG“「軌跡」シリーズ”だ。 「軌跡」シリーズは、『英雄伝説』シリーズでも名作との評価が高い「ガガーブトリロジー」のテイストを受け継ぎ、魅力的なキャラクターが密度の濃いシナリオで活躍を繰り広げる作品だ。現在までに10作以上を数えており、アクションRPGの『イース』シリーズとともに、現在の日本ファルコムを代表するタイトルになっている。とくに、プレイステーションで初めて日本ファルコムの存在を知った、比較的若い年齢のゲーマーにとっては、非常に印象深いシリーズだろう。 この2021年9月30日には、「軌跡」シリーズ最新章の開幕となる『黎(くろ)の軌跡』が、プレイステーション4で発売される。さらに2021年には、前作の『創の軌跡』がNintendo Switchでもリリースされたほか、『閃の軌跡』4部作をSwitchで通してプレイすることが可能になるなど、「軌跡」シリーズはよりいっそう大きな広がりを見せている。 そこで今回は、日本ファルコム株式会社代表取締役社長の近藤季洋氏にお話を伺った。近藤氏は社長として経営の指揮を執るだけでなく、ゲーム開発者の顔も持っており、とくに「軌跡」シリーズ第1作の『空の軌跡』ではシナリオをみずから執筆するなど、「軌跡」シリーズを語るにはもっともふさわしい人物だ。 過去作の思い出はもちろんのこと、新作である『創の軌跡』や『黎の軌跡』の開発秘話、そして「軌跡」シリーズと日本ファルコムの今後についてなど、さまざまな話題が語られている。「軌跡」シリーズのファンはもちろんのこと、日本のRPGに関心のある人には、非常に興味深い内容となっているはずだ。 <「軌跡」シリーズ一覧> 2004年 英雄伝説 空(そら)の軌跡 FC2006年 英雄伝説 空の軌跡 SC2007年 英雄伝説 空(そら)の軌跡 the 3rd2010年 英雄伝説 零(ぜろ)の軌跡2011年 英雄伝説 碧(あお)の軌跡2013年 英雄伝説 閃(せん)の軌跡2014年 英雄伝説 閃の軌跡II2017年 英雄伝説 閃の軌跡III2018年 英雄伝説 閃の軌跡IV -THE END OF SAGA-2020年 英雄伝説 創(はじまり)の軌跡2021年 英雄伝説 黎(くろ)の軌跡<シリーズ独立作品>2012年 那由多(なゆた)の軌跡※年号はオリジナルプラットフォームでの発売時のもの。聞き手/TAITAI文/伊藤誠之介撮影/佐々木秀二■「軌跡」シリーズを遊んで入社してきた若手スタッフに開発を任せた『創の軌跡』──「軌跡」シリーズに特化した、シリーズ全般についての話を近藤社長におうかがいしたく、今回はそういった趣旨でインタビューをお願いしました。まず最新作についてうかがいたいのですが、9月30日に発売される『黎の軌跡』の開発に、近藤社長はどのぐらい関わっておられるのですか? 以前のインタビューで「『創の軌跡』の開発は若手に任せていた」というお話があったので、『黎の軌跡』はどうなのかな? と。近藤氏:今回はわりと監修役に徹していますね。以前の作品のように、シナリオを直接書くといったこともなくて。もちろんシナリオを全部チェックして、フィードバックを戻したりはしましたが。 そういう意味では、いちばん関わっているのは完成直前(インタビューは8月に実施)のいまかもしれない(笑)。最後のほうのまとめ役ですね。もともと僕が開発に関わり始めたきっかけは、開発の最終段階でまとまらないとか、行き詰まったチームを助けていくという役割だったので。今回も、最終的にゲームをまとめるときに、「ここはこうしよう」、「これは変更したほうがいいんじゃない?」といったことを話し合って。ディレクターとはまた違うんですけど、開発を終わらせるためのディレクションというか。そういう形で今回の『黎の軌跡』にも、ある程度関わっています。──その場合、最終的な部分を決めるのは近藤社長なんですか? それとも開発チームが決めるのを促す役割なんですか? 近藤氏: 決めるのを促す役割ですね。以前は僕が決めていましたけど、「軌跡」シリーズは開発期間が長いし、とくに『黎の軌跡』は初作ということでさらに長めに取ってあったので、ずっとつきっきりでやれたわけではないですから。なので、要所要所で関わるという形になっていますね。──そうやって監修するときには、何をポイントにされているのですか? 近藤氏: 立場が立場ですから、まずは発売日に間に合うように、ということですね。会長の加藤(正幸氏)もよく言うのですが「ちゃんと終わらせなさい」と。そこは憎まれ役でもあるんです。でも「ただし、手は抜かない」という言葉も一緒につくんです。──そういう中で「これは大事で、これは大事ではない」という取捨選択が突きつけられると思うんです。それを選んでいく過程が、まさにディレクションというか、コンテンツの肝じゃないですか。「軌跡」シリーズを作っていくにあたって、取捨選択をする際に何を大事にしているのだろう、と。近藤氏: 突きつけられる問題によると思うんですけど。「軌跡」シリーズの場合はキャラクターとストーリーの比重が高いものですし、ユーザーさんが「軌跡」に求めているのもそこなので、シナリオの表現をいちばん大事にします。これが逆に『イース』だと、アクションゲームとしてのおもしろさが大事なので。 たとえばシナリオとステージの構成が違っていても、それがゲームとしておもしろいのであれば「シナリオを変えよう」という判断になりますし。「軌跡」のほうは人物やシナリオが大事なので、ステージやダンジョンのほうを「これは諦めようね」という判断になります。 やっぱりタイトルとか、そのときに直面する問題によって、さじ加減は変わってくると思います。──開発に携わるメンバーは、どんどんと世代が代わっているのですか? 近藤氏: じつは「軌跡」シリーズ第1弾の『空の軌跡 FC』を開発したメンバーは、いまもそのまま所属していまして。たぶん全員残っているんじゃないかな。──それはスゴイですね!近藤氏: もちろん、それに加えて新しいメンバーも増えていて。「『空の軌跡』を遊びました」、「『零の軌跡』を遊びました」という20代、30代の人間もいて。おもに携帯ゲーム機で遊んでいたメンバーですね。『創の軌跡』はそうした若手が中心になっていて、開発のリーダーは30代の人間なんです。 『創の軌跡』のシナリオは若手のシナリオライターが考えたので、キャラクターのやり取りなんかはいつもと違った印象を受けられたんじゃないかと思います。シリーズを続けていくとなるとやっぱり、ずっと同じメンバーで同じことをやっていたらダメだなと思いますよね。──昔からいらっしゃるメンバーは、ずっと「軌跡」シリーズの開発に携わっているのですか? それともいったん別のチームに移って、また戻ってきたりということも? 近藤氏: ファルコムって、昔はチームがはっきり分かれていて、チーム間の行き来がほとんどなかったんです。でも社長が僕になってからはわりと動的になっていて。まずコアメンバーが先にプロジェクトを立ち上げて、ある程度進んだら人を動かして、役割を決めていくので。ずっと「軌跡」シリーズをやっているような人もいるんですけど、時期によって人員のリソースはどんどん代わっていきます。 だから最初は4、5人でスタートして、終わる間際には30人、40人という体制になっています。60人ぐらいでやっている小さい会社なので、開発は40~50人ぐらいなんですけど。──開発のスタート時にはどのような人たちが? 近藤氏: 「軌跡」であれば、まずシナリオが最初に決まりますのでシナリオの人間と、それからゲームシステムを考える人間。これは企画職の場合もありますし、ウチはプログラマーが企画を兼ねる場合もあるので、そのときどきによって違うんですけど。あとはデザイナーですね。キャラクターと世界観、それぞれの担当がだいたいひとりずつはつくので。 そういう形で各分野の担当者がひとりずつ入って、最初は原型を作るところから始めていって。そこからプロトタイプ的な物を作るときになると増員して。形ができてデータを作るタイミングになると、そこからどんどん増えていくんですけど。 ただ、会社全体の状況にも左右されるので。『イース』のほうが先に出る場合は、そちらのほうに人員が集まっているので、「もうちょっと待って」という形で進めたりもしますね。──長く続いているタイトルだと、開発側にも世代交代があると思っていて。そのときに「このシリーズのコアは何なのか」みたいなことを改めて議論するなど、そこから若い世代がその世代なりの解釈で、新シリーズを作っていったりすると思うんですけど、「軌跡」の場合はどうなんでしょう? 近藤氏: それを目指したのが『創の軌跡』だったんですね。『閃の軌跡』が完結した後に、「軌跡」チームが『創の軌跡』と『黎の軌跡』の二手に分かれたんです。──そうなんですね。近藤氏: 『空の軌跡』からずっと関わってきた人間が『黎の軌跡』を立ち上げて。それと並行して立ち上がった『創の軌跡』のほうに若手を寄せて立ち上げたんです。 『創の軌跡』はやり込み要素が充実していたんですけど、あのへんは若手が決めて自分たちで実装していったものです。舞台が『閃の軌跡』と同じで、比較的短期間で制作するというプロジェクトでもあったので、そこまで革新的に変わってはいないですけど。でもがんばって、僕たち昔からのメンバーではやりきれないところまで持っていったと思います。──やっぱり若手だと視点が違うな、と思ったところはあるんですか? 近藤氏: 本当は、いまの半分以下の物量を想定していたんですよ。でも作っているうちにどんどん膨らんでいって。僕らも『空の軌跡』を作っているときに、なかなか完成しなくて「半分で出せ」と言われたというエピソードがあるんです。それこそ『イース』や『イースII』のように。でも『創の軌跡』のチームは最後までやりきったので、スゴイなと思います。 それから「軌跡」もやっぱり、初代から関わっている人間としてはなんとなく「こうしなさい」というものがあるんです。でも『創の軌跡』から登場してきた新キャラクターであるとか、アルファベットの「C」という名前の人物は、それに反発して出てきたアイデアなんです。だから出てきたときに「えっ、これどうするの?」と思いながらも、僕なんかは「そういうやり方もあるんだ」と目からウロコが落ちた気分でしたね。──ちなみに「こうしなさい」というのは、具体的には? 近藤氏: 具体的に「こうしなさい」と言っているわけではないんです。でもあるじゃないですか、「こうしてほしくないな」とかいうのが(笑)。もうちょっとお行儀良くあってほしいとか。そのへんの年齢差によるギャップというのはありますよね。たとえば、「軌跡」シリーズは人が命を落とすということに対して、ものすごく慎重なんです。でも若手はけっこうズバッ! とやっちゃう。それは「ちょっと待って」と言いそうになるんですけど。 あとはシナリオのセリフ回しですね。『創の軌跡』では、10代の女の子がけっこうえげつないことをケロッと言うシーンがあるんです。そういうことを僕らはやってこなかったんですが、昨今のタイトルを見て育った人たちだとか、日本のラノベが好きで入ってきた外国人のスタッフなんかは、そういうセリフ回しがパッと出てきて。実際に見てみると、僕らではやらないけど、ちゃんとおもしろいなと思えるものにしてくれているんです。そういうところは『創の軌跡』の開発中に、いろいろと実感したところがあるので、これはこれでやって良かったなと思っていますね。■みずからシナリオを手がけた『空の軌跡』で、『英雄伝説』らしいセリフの細やかさを受け継いだ──「軌跡」シリーズが誕生して、もう17年になります。近藤氏: 開発を始めたときからだと、20年ぐらい経ちますね。自分がまだ20代後半ぐらいでしたから。──シリーズ第1作の『空の軌跡 FC』のときには、近藤社長はどういう関わり方だったのですか? 近藤氏: 僕は入社後、しばらくはずっとネットワーク関連の仕事をしていて、そこからシナリオの作業に1~2年関わらせてもらって。『空の軌跡』に関わるようになったのは、その後にスケジュール管理的な仕事……実際にプロジェクトマネージャーという名前がついたのはもっと後なんですけど、その触りみたいなものをやるようになったころですね。 『英雄伝説V 海の檻歌』のメインプログラマーだった先輩が、「新しい『英雄伝説』をやる」ということで企画書を出したら、会長の加藤から「一緒にやれ」と言われて。そのときに「シナリオを担当してほしい」と先輩から言われたのがきっかけですね。──『空の軌跡』というのはいろいろな意味で、それまでの日本ファルコムの流れがガラッと変わった、特異点のような作品ですよね。とくにPCで出た後にプレイステーション・ポータブルでブレイクして、それで一気に知名度を上げたと思うのですが。近藤氏: じつは『空の軌跡』がPCで出たときは、前年の2003年に発売した『イースVI -ナピシュテムの匣-』のほうが売上は上だったんです。それでいて『空の軌跡』の開発期間は『イースVI』よりも長いので、僕の前の山崎伸治社長に「『英雄伝説』より『イース』を作ってほしい」と言われたぐらいですから(笑)。でも当時の自分としては、『英雄伝説』で『イース』に勝ちたいと思っていたので。──『空の軌跡』のときは、これまでのゲームとは手応えや雰囲気が違ったのでしょうか? 近藤氏: 『空の軌跡』の前に、『英雄伝説』の3、4、5作目が『ガガーブトリロジー』として続いていて。それが完結したので、その延長上のものをやるのか、ガラッと変えて新しいシリーズをやるのかという選択肢があったんです。 そのときに、先輩たちや同期の人間たちと話して、「せっかくだから自分たちにしかできないものをやりたい」と。ただ、僕の同期は「ガガーブトリロジー」が大好きで、その影響を受けて入社してきた人間が多かったこともあり、「ガガーブトリロジーの良いところは受け継ぎたいよね」という話をしたんです。新しいことをやりたいという想いと、前作へのリスペクト。そのふたつが入り混じって生まれたのが『空の軌跡』ですね。 僕自身もファルコムのタイトルが大好きだったので、まったくファルコムじゃないものを作りたいとは思わなかったんです。ただ、自分たちがやるからには、過去作と同じことはたぶん無理だろうと。それで先輩たちを超えるのは難しい。であれば、ファルコムっぽいけれどファルコムがまだやったことのない世界観をやろうと。それでスチームパンク的なものを前面に押し出した世界観で、自分たちなりのものをやっていこうよと始まったのが『空の軌跡』なんです。──「ファルコムっぽい」というのをもう少し詳しく言語化すると、どういうことですか? 近藤氏: 「ファルコムっぽい」というか、より正確には「『英雄伝説』っぽい」と言っていたんですけど。僕らも話したんですよ、「どうすれば『英雄伝説』っぽくなるか」について。 当時は『ファイナルファンタジーVII』みたいに、ガッツリとしたスチームパンクを前面に押し出した、クールな見せ方をしていくものが流行っていたんですけど。でも「ガガーブトリロジー」は「田舎のおふくろさん」というか(笑)。おせっかいなんですよ、妙に。「その心地よさってあるよね」という話を、『空の軌跡』のときはしたんです。妙におせっかいだし、人があまり死なないし、なんとなく諭されているというか。そういった雰囲気みたいなものは、「ガガーブトリロジー」から失いたくないものだよね、と。それが『空の軌跡』の礎のひとつだと思います。 それからもうひとつ「ここは絶対に受け継ごう」と言っていたのは、NPC全員に名前をつけて、ゲームの進行に合わせてフラグごとにセリフを変えていくところ。当時『英雄伝説』を好きだった人間は、まずそこが好きだったんです。ひとりひとりの住人たちにエピソードがあって、メインストーリーだけを味わっても十分にゲームを楽しめるんだけど、ちょっと脇道に逸れたときに、この世界にいる人たちの人間模様が見えるというか。生きた世界を旅しているんだなという感慨をプレイヤーに与えてくれる細やかさが、「ガガーブトリロジー」にはあって。当時のRPGでそこまでやられている作品は、なかなかなかったと思うんです。そこは『空の軌跡』にもちゃんと持っていきたい。「そのふたつをまずちゃんとやろう」と、スタッフの人たちと話した思い出があります。  ──そこに関しては、以前の取材で伺った、近藤さんがファルコムに入社したきっかけと重なる部分でもありますよね?近藤氏: はい。僕は大学生のときに『英雄伝説III 白き魔女』のシナリオを、全部タイピングして書き写したことがあるんです(笑)。それでなんとなく身についていたこともあって、先輩に聞かれた際もスラスラ出てきたんですけど。──そのへんのセリフが変化していく細やかさだったり、あとは、これも近藤さんのインタビューでよく出てくる言葉なんですけど、「やっぱり触り心地が大事だよね」という。たとえばマップを移動することひとつを取っても、やっぱり快適であるべき、みたいな話があったり。近藤氏: 僕たちは誰ひとりとしてスゴイ才能の持ち主ではないので、当たり前のことしかできないんです。ならせめて、当たり前のことをちゃんとやろうよと。社内では会話メッセージのことを「一般メッセージ」と呼んでいるんですけど、一般メッセージをちゃんとやるというのは、クリエイターであれば技術的には誰でもできることなんです。ただ、それをやろうとするかどうかだと思うんですよ。1章に200人ぐらい出てくるNPC全員に名前をつけて、フラグごとに細かくセリフを決めて、ということを。 そういう、自分たちでもできることを探っていった結果として、そういうものをやっていくということがあった気がします。──そういった細かいセリフの変化と、マップを快適に移動する気持ち良さが噛み合っているからこそ、プレイヤーはあちこち探索しようという気になるんですよね。近藤氏: そうですね。街の中にNPCを置く配置に関しても、いまはだいぶ変わってきましたけど、『空の軌跡』当時はかなり気を遣っていましたね。メインシナリオで街の通りを何回往復するだろうということから逆算して、こういうキャラを配置しようとか、こういうことを言わせようとか、そういうことを考えていましたね。──マップであれば大通りがいちばん行き来することが多いわけじゃないですか。たとえばそのときには、どんな会話を用意するのですか? 近藤氏: 大通りにいるNPCにはみんな話しかけるので、メインストーリーに絡む話題を言わせることが多いんですよ。事件に関係する当事者の話はメインストーリーを見ていればわかるんですけど、当事者ではない人たちから見た話題、たとえば一般の人たちがどう考えて、それに対してどう向き合っていくのか。道端にいる人に話しかけたら、メインストーリーの見方がさらにもうワンランク深く感じるようなメッセージを言わせようというのが、そもそもの原点なんです。 逆に、メインストーリーから外れた場所に行く人は、自分から「何かないかな?」と求めて本筋を外れるプレイヤーなので。そういう人たちにはちょっとしたご褒美的なものを配置する。誰も行かないような裏路地のいちばん奥にNPCが立っていたら、やっぱりその人に話しかけたくなるわけです。そのときに何が返ってくるかということを、ちゃんとやろうよとか。そういうことを徹底して、細かく詰めていくだけなんですよね。 そのへんは8ビット機でゲームを遊んでいたころのワクワク感と何ら変わることがなくて。あの時代のRPGで、たまたま壁を突き抜けた先に闇商人がいたりしたら、やっぱりワクワクするじゃないですか(笑)。そういう感覚をいまもちゃんとやりたいね、ということなんだと思います。──そのへんはまったく変わらないものなんですか? それとも、そこを現代的にする工夫があったりするんですか? 近藤氏: 僕としてはそこもあまり変わらないでいてほしいな、という想いがあって。逆に省力化されて、忘れ去られていきそうなところでもありますから。いまは日本のゲームからは消えちゃって、逆に海外のインディゲームでそこが再認識されている気がして。   昔の『FF』で壁をすり抜けて進んでいったりするシステムが、大好きだったんですよ(笑)。そういうものっていまは、3Dになって世界観がリアルになったことで、表現しにくくなっている部分があるんですけど、ああいうものがなくなってしまうと、すごく寂しい気がします。逆に、ああいうものをいまの形でやるにはどうしたらいいのか、考えたりしていますね。■PSPの『零の軌跡』で20代、『閃の軌跡』で10代のファンがドッと増えた──「軌跡」シリーズをいまのユーザーさんにどうオススメすればいいのか、というのを考えたときに、これまでのお話を聞いて思ったのは「変わらない良さ」ですよね。「老舗のお饅頭って美味しいよ」みたいな。 とはいえ、「軌跡」シリーズって本当に長く続いていて。もちろんいちばん最初の『空の軌跡 FC』から遊ぶのが理想ではあるんだけど、いまはハード環境的にもやや難しい。そんな現在の状況の中で、近藤社長としては新しい人にどうやって「軌跡」シリーズに入ってきてほしいと考えているのでしょうか?近藤氏: そうですね。「軌跡」シリーズは17年続いているタイトルですけど、その中に明確な区切りがあって。その区切りでユーザーさんはけっこう入れ替わっている気がするんですよ。 PCで発売された『空の軌跡』は、いまだに評価がいちばん高いんですけど、支持してくれているのは30代以降の人たちなんですね。そこからPSPの『零の軌跡』に移ったときに、ユーザーの年齢層が10歳ぐらい下がったんです。当時の20代前半ぐらい。そのつぎの『閃の軌跡』のときには、今度は10代の人たちがガッと入ってきて。 それまでのファルコムは10代をどうやって取りこむかが課題だったんです。『閃の軌跡』は学園物だったし、コンソールに来てしばらく腰を据えてやってきたことで存在を認知してもらえたというのも、たぶんあったと思うんですけど。そういうこともあって、10代後半がけっこうな割合で増えたんです。 だから言ってしまえば、タイトルが変わるところは大きな区切りではありますし、それとともにハードウェアも変わってきていて、それに合わせたものをなるべく僕らも開発してきているので、そういったところで入ってきていただければと思います。  ──なるほど。タイトルが変わったタイミングやハードが変わったタイミングなら、新しい人も「軌跡」シリーズにスッと入っていけると。近藤氏: そういった意味ではNintendo Switch版の『閃の軌跡』であるとか、それから私たちがいま作っている『黎の軌跡』は、ちょうどいいかもしれないですね。さすがに『閃の軌跡IV』から始めるのはたいへんだと思うんですけど(笑)、そこは最初の『閃の軌跡I』から始めていただいて。あとは『零の軌跡』から始めていただくとか、そういったタイミングですね。 最初はわからない単語なんかも出てくるんですけど、やっていただいたお客さんから「そこまで気にはならない」と言ってくださることも多いので。実際に、『閃の軌跡』から始めてそこからさかのぼって『空の軌跡』を遊んだという方もけっこういらっしゃいますし。──区切りのタイミングでユーザー層の世代が変わったというのは、狙っていたところなんですか? 近藤氏: ある程度は狙っていたところでもありますね。たとえば、最初から携帯ゲーム機で出した『零の軌跡』は、それまでの『空の軌跡』から比べると、主人公たちのデザインや服装ひとつを取っても、わりと当時のトレンドを意識していて。 でも最初に社内で発表したときは、「『空の軌跡』とぜんぜん違うじゃん!」と、けっこう反発されたんですよ。「同じ世界観のさらに小さい地域に舞台が移ったのに、なんで先進的な服装になってるの?」という反発と、販売からは単純に「『空の軌跡』が売れていたのに、なんでそのイメージを捨てちゃったの?」という反発ですね。あとは「戦術オーブメント」という魔法を発動する機械があるんですが、『空の軌跡』では懐中時計がモチーフだったのに、『零の軌跡』からは携帯電話になっちゃったので(笑)、それもけっこう怒られたんですけど。 でもPSPのユーザーは当時のコンソールでも若いユーザーが多かったのと、あとは僕ら自身もずっとPCで地味目にやってきたので、「コンシューマっぽいことをやってみたい」という憧れがあったんです(笑)。そこを言い訳にしたというか。 じつは開発規模的にも、クロスベル編は本来『零の軌跡』のみの短編として終わらせるつもりだったんです。だからひとつの街で終わらせようと。それは本当に、開発リソースの都合から発生した話で。広大なマップ、広大な国を用意するのは大変なので、規模を抑えてやろうとしたんだけど、でも結局大きくなっちゃうんですよね(笑)。──『閃の軌跡』で10代のユーザーが入ってきたというお話でしたけど、それまで10代が入ってこなかった理由はどういうところで、それを解決するために、具体的にはどういうことをやられたのですか? 近藤氏: 単純に、学園物にしたというのはひとつの仕掛けでしたよね。やっぱり。 自分たちの作ったものに対して、良くできてはいるんだけど、なかなか手に取ってもらいにくいという認識があって。とくに『空の軌跡』に関しては、昔のRPGが好きな人たちには「絵柄とか世界観がすごく好きだ」と言ってもらえるんですけど、若い人たちから見るとちょっと古いのかな、というのがあって。 それに反発するような形で『零の軌跡』を作ったら、社内で「うまくいくのか?」と言われたんですけど、結果として『零の軌跡』とその続きの『碧の軌跡』は良かった。そういった体験を踏まえて、さらにもうワンステップ進めるには何をしたらいいかと考えたときに、やっぱり10代の若者たちに向けて作りたいね、と。 『閃の軌跡』の帝国編というのは、最初は軍人でやるつもりだったんです。ただ、RPGの主人公として軍人は動きにくいというのと、いま言ったようなことで、士官学校の生徒たちという形にしたのが、ひとつの決断でしたね。──でも学園もののプレイヤーって、じつは学生ではないという話もあって。人数的には「こういう学生時代を送りたかった」という20代がメインなことも多いらしいんです。そういう意味では、学園物でちゃんと10代にウケているというのも、それはそれでスゴイ話だなと思うんですよ。近藤氏: なるほど……なんででしょうね。『閃の軌跡』の1作目が出た当時はライトノベルが流行っていて。それも異世界転生物が流行る直前なので、学園物+ファンタジーみたいなものがわりと主流だったころで。そこからウチのスタッフが影響を受けていたというのもあるとは思うんですが。 あとは10代の人たちが、それまでは「軌跡」シリーズのことを知らなかったんじゃないでしょうか。それが携帯ゲーム機で出たことで、ちょっとずつ知られるようになって、10代にまで広がったのがちょうど『閃の軌跡』のタイミングだったというのもあると思うんです。──その広がりというのは、コミカライズで広げるなどのプロモーション・マーケティングの仕掛けがあったのですか? それともあくまでゲームで広がっていったんですか? 近藤氏: ゲームで広がっていったと思います。ウチってコミックと合わせて仕掛けるとか、アニメと合わせて仕掛けるといったことが、わりとやりにくい作り方をしてしまっているので。ゲームが出るまで全容がわからないとか、そもそも本当に発売日に出るの? みたいな(笑)。 じつはウチの長男が、友人から「軌跡」シリーズを薦められたという話があって。あとは、電車の中で高校生が「軌跡」シリーズの話をしているだとか。それまではなかったんですが、急にそういうことを見かけるようになったのが『閃の軌跡』のタイミングだったと思います。 それと、こちらが意図した仕掛けではないんですが、『零の軌跡』で「軌跡」シリーズを知った方たちが、スマホゲームとのコラボだとか、いろいろな提案をくださったんです。メディアとのタイアップが始まったのも、『閃の軌跡』だったと思います。『零』や『碧』よりも『閃の軌跡』のほうがビジュアル的なフックが強かったぶん、そうしたタイアップもしやすかったのかもしれません。 そういう意味では『零』、『碧』は海外の展開も一歩遅れてしまって。北米版が出たのは『閃の軌跡』よりもかなり後になってしまったんですよね。最初が携帯ゲーム機だったので、北米での展開が難しかったというのもあるんですけど。■ゲームのタイトルに関しては、自分が「良い」と思うかどうかで決定する──「軌跡」シリーズはどれも“○の軌跡”という形式になっていますが、タイトルを最終的に決定するのは誰なのでしょうか? 近藤氏: 最終的に決めるのは自分ですね。案自体は社内で出してもらう場合もありますし、シナリオライターに出してもらうこともありますし、会長の加藤が出す場合もありますし。そのときそのときで案の中から2~3個に絞って、いろいろ屁理屈をつけるんですよ。「だからこれでいきます」という。 『空の軌跡』という名前をつけたときは、その段階ではぜんぜん空を飛ばないゲームだったんです(笑)。でもタイトルを決めることで、みんなの意識がだんだんそっちに寄っていく。そこから「飛行船をもっとクローズアップした世界観にしよう」というのが出てきて。──決まるのにいちばん時間がかかったタイトルは? 近藤氏: 『碧の軌跡』かな。開発側はゲームの内容に沿ったタイトルを主張して、『碧の軌跡』の案を出した人間は「こういうイメージで商品をまとめたい」という主張で。そこでなかなか折り合いがつかなかったというのが、ひとつの原因ですね。──ゲームの内容に沿ったタイトルというのは、どんなものだったんですか? 近藤氏: 最初のころはそれこそ“零の軌跡2”というのもありましたけど、“無限の軌跡”、“終(つい)の軌跡”とかだったような。あまり思い出したくないですけど……。なにしろ発表ギリギリまで揉めて、ロゴを作るデザイナーが待っているんですから(笑)。いろいろ揉めたあげくに『碧の軌跡』に落ち着いて、あれはあれで良かったねと。 ゲームを作る側はタイトルと内容をちょっとでも関連づけたいし、それに沿ったものにしたいと考えるので。ただ、たとえ内容に沿っていたとしても、心に残らないタイトルはつけたくないというのが、ファルコムのルールなので。そこのせめぎ合いですね。 逆に一発で決まったのは『創の軌跡』と『零の軌跡』ですね。『零の軌跡』は「ズルい」と言われました(笑)。文句のつけようがないので。──『創の軌跡』は他とパターンが違うので難航したのかなと思っていたのですが、意外でした。 近藤氏: ゲーム自体もやや異色な作品だったので、いままでのルールを踏み外してもいいのかなと。あとは単純に漢字の綺麗さというか、ロゴにしたときのイメージが明確だったので。漢字の読みが「はじまり」と「はじめ」で揉めたんですが、「はじまり」のほうが良いよねということで。──ファルコムさんでは、そうしたときにマーケティングの話をするんですか? 近藤氏: ゲームのタイトルに関しては、はっきり言って、良いか悪いかで決めています。それがある意味、マーケティングになっていると思うんですよ。僕らのユーザーさんは「ファルコムのタイトルはほかとは違うんだ」と思っていてくださる方たちで、そこに応えるようなタイトルじゃなきゃいけないし。あとは一般の人たちに、少しでも手に取ってもらいたいという気持ちがあるので、単純にタイトルとして、少なくとも自分たちが良いと思えないものは、他の人も良いと思ってはもらえないだろうと。そういうところでタイトルにこだわるというのはあると思います。──その場合の「良い」というのは、何をもって良いと判断されるのですか?近藤氏: 感覚はもちろんあるんですけど、一回自分の主観を取り払って、良いか悪いか考えて、時間を置いてもう一回考えてみたり。あとはそういうことに嗅覚のあるスタッフに意見を聞いてみたり。その場でパッと見せて「はい、良いか悪いか」って聞いてみたり。そこですぐ応えがあるのが重要で、しばらく悩んでから「良いと思います」と忖度するように言うものはダメなんです。 あとは見せたときに、その場にいる人がシーンとなるものはダメで、盛り上がるものが良いんです。『東亰ザナドゥ』ってタイトルを社内でパッと見せたときは、すごく盛り上がったんですよ。それはメディアの方も同じで、タイトルだけでけっこうピンと来るものがあったみたいで。それはやっぱり良いタイトルですよね。■「お父さんがプレイしていたゲーム」が、新たなファンに受け継がれていく──ちなみに、シリーズ第1作目の『空の軌跡』のコンソール版はPSPやPS3がメインで、現行機種がありませんが、リメイクなどは考えられているのですか? 近藤氏: すごくやりたいんですけどね。ただ、新作でやりたいこともたくさんあって、「軌跡」シリーズの今後を考えると、いまの人数、いまの態勢では難しい。何か大きな一手を打たないと、ちょっと実現しないかなとは思っています。 初代が17年前のゲームなので、手に取りにくいというのがありますし。あとは「リメイクをしてほしい」と海外の方から言われることが多くて。日本の方は『閃の軌跡』以降のイメージが強い方が多いと思うんですが、海外ではいまだに『空の軌跡』の人気が高くて。 じつは『空の軌跡』に関しては、コンソールで海外展開する前に、PCパッケージ版で中国などに展開していたんです。実際、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)さんがPS Vita版『空の軌跡 FC Evolution』を中国でローカライズしたら、現地の方はすでに『空の軌跡』を知っていたのでマーケティングしやすかった、という話も聞いています。 だからいま、中国の若い方が「軌跡」シリーズを遊んでいると「昔、お父さんがプレイしたゲームだぞ」みたいに言われることもあるらしいんですよ。そんなふうに世代間で評判が引き継がれているというのもあるかもしれないですね。日本でもファルコムのゲームって、「お兄ちゃんがプレイしていた」、「お父さんがプレイしていた」というのがきっかけで、遊び始める方も多いので。──そういう形での、プレイヤーの世代交代も多いのですか?近藤氏: それがマスではないと思いますけど、もしかしたらそのパターンが、ほかのタイトルよりは強いかもしれないですね。お父さんが、大人になってもずっと遊んでくれているんですよ。 僕が「ファルコムに入りたい」と初めて言ったのは高校生のときですけど、そのときに横にいて「お前が入れるわけないだろ」と言った友人は、いまでも僕が作ったゲームを遊び続けてくれているので(笑)。さっきお話したウチの次男の友人が『イース』を大好きなんですけど、お父さんが遊んでいるのを見てやってくれていると言っていましたし。リピーターがもともと多いメーカーだとは思うんですけど、それがさらにそういうつながり方をしてくれているんですよね。──先ほど海外のファンの方の話題が出ましたが、海外のファンの反応は、日本のファンとはまた違うのでしょうか? 近藤氏: 僕もそんなふうに思っていたんですよ。たとえば欧米のファンの方なら、向こうのゲームとはシステムがちょっと違うので、そういうところに着眼して「好き」と言ってもらっているのかな、とか。ところが実際に会ってみると、ほぼ日本の方と同じ反応なんですね。「キャラが良い」、「ストーリーが良い」といった感じで。 僕らのゲームには、日本のユーザーさんにすぐにネタにされてしまうところがあるんです。たとえば主人公がすぐに女の子の頭をなでるとか。でも欧米のファンの方が、5人ぐらいでリィンのコスプレをして女の子の頭をなでたりして(笑)。そこも含めてポジティブに楽しんでくれていますね。中国のイベントでも、クロウのコスプレをした女性が日本語で書いた手紙を朗読してくれたりして、海外のファンの方の熱量は総じてすごく高いですね。 それと、イギリスのファンの方に音楽を褒められたのは、非常にうれしかったです。ウチの音楽はUKロックの影響を受けているので、本場の方が「あの曲は良かったです」と言ってきてくださると、やっぱりうれしいですね。──今度は日本のファンについてお聞きしますが、いまの日本ファルコムのファン層は、どういう構成になっているのですか? 近藤氏: 『イース』と「軌跡」シリーズとでは、やっぱり温度差があるような気がします。『イース』はやっぱりゲームそのものを好きな人が多いですね。──『イース』のファン層は、途中で変化しているのですか? 近藤氏: 2016年に発売された『イースVIII -Lacrimosa of DANA-』でちょっと変わりましたね。「初めて遊んだのは『イースVIII』です」という回答が、アンケートでも多く出ていたように思います。ナンバリングとしては7年ぶりに出したタイトルなんですけど、「こんなにおもしろいゲームがあったんだ」という反応があって。一方でオールドユーザーの方たちも「ひさしぶりにファルコムらしいゲームを出してくれた」とよろこんでくれたんです。実際、ファルコムらしさをものすごく意識した内容だったので。ゲームシステムなんか、カギを集めて次の扉を開くっていう、本当に昔のゲームみたいな感じなので。 ユーザーさんの年代は、いまはまた10代が減っているかもしれないですけど、20代ぐらいから、上は50代ぐらいまで。その中で、硬派な人たちと「軌跡」が好きな人たちで二極化しているとは思います。そして男性比率が高い。ユーザーの比率としては男性が8割ぐらいだと思うんですけど、イベントの参加者は女性の比率が3~4割ぐらいまで増えますね。──それでも女性ファンの比率としては少ないほうですよね。男女のユーザーが半々ぐらいのゲームでも、イベントの会場は8~9割が女性ファンで埋まったりするんですが。近藤氏: 以前に『閃の軌跡』のミュージカルをやっていただいたんですけど、そのときに先方の会社さんから「こんなに男性客の多い2.5次元ミュージカルは初めてだ」と言われましたから(笑)。それも僕らの課題なんですけどね。──でも、男性ファンがそこまで根強くいるということは、それだけゲームとして支持されているということなんでしょうね。とくにオールドファンは、日本ファルコムというブランドに対する信頼感というか、安心感があると思います。近藤氏: それはうれしいことだと思っていて。ユーザーアンケートの購入理由の1番目か2番目に「ファルコムだから買う」というのが来るんですよね。その信頼を裏切ることはできないなと思いますし、でもそうは言っても僕らもはっちゃけたいという気持ちもあるし(笑)。そこはせめぎ合いで、そういうところから『東亰ザナドゥ』みたいなタイトルも出てくるんですけど。──でもシリーズという意味では、いまのファンの期待に応えるというのもありつつ、さらにその次に向けて一歩踏み出すというのも、IPとして続いていく際には必要だと思うんです。いますぐどうというものではないかもしれませんが、そういった「軌跡」シリーズの将来に向けての構想みたいなものはあるのでしょうか? 近藤氏: いま作っているものがやっぱり、何らかの形で今後の足がかりになっていくと思うんですよ。「軌跡」シリーズももとを辿れば『ドラゴンスレイヤー』シリーズなんです。『ドラゴンスレイヤー』シリーズの6作目が『ドラゴンスレイヤー英雄伝説』で、『英雄伝説VI』が『空の軌跡』ですから。 新しいゲームを作っていくときに、何かしら足がかりになるというのは、まったくのゼロから始めるよりも、かなりのアドバンテージなんです。アクションRPGだった『ドラゴンスレイヤー』シリーズの中で、当時かなりストーリーに振った『ドラゴンスレイヤー英雄伝説』が出てきて。その3作目でまたテイストが変わるんですね。オーソドックスなRPGで快適な遊びやすさを追求したのが『ドラゴンスレイヤー英雄伝説I・II』だったんですが、そこからものすごいテキスト量に振ったのが「ガガーブトリロジー」で。この三部作のさらにその上に「軌跡」シリーズがあって、いままたそれが10作以上続いている。 だから今後、「軌跡」シリーズで培ったことをまた別の何かに発展させていくというのが、僕らはどうも好きみたいですよね。■『黎の軌跡』はコマンドバトルがアクションのようにサクサク進む、テンポの良さを目指した──そういった意味では、最新作の『黎の軌跡』はどういうコンセプトなのでしょうか? 近藤氏: 『黎の軌跡』もストーリーを大事にするという「軌跡」シリーズの特徴を受け継いでいるんですけど、その一方で『空の軌跡』から17年も経っているので、ゲームシステム面を一度、全面的にオーバーホールしようと。それによってプレイアビリティを高めて、コマンドバトルそのものを再構築したい。そういうところで始めたのが『黎の軌跡』です。だから戦闘システム周りは、これまでの「軌跡」シリーズを遊んでいた方だと、ビックリされるかもしれませんね。 従来の「軌跡」の戦闘は、見ているだけの時間が長かったんですよ。コマンドを押すとキャラクターが歩いていって敵を攻撃して、みたいな。そういう待ち時間がほとんどなくて。ゲームが止まるとしたら、ユーザー側がどうしようと思って止まったときにしか止まらない。それぐらい操作周りやUI、ゲームシステムを大きく見直しているんです。それはやっぱり「軌跡」シリーズをまだ続けたいからこそ、変わらないとダメだよねというところから出てきた発想なんです。──アクションにするわけではないけれど、リアルタイム性がある感じですか? 近藤氏: リアルタイム性はあります。リアルタイムの移動と、コマンドバトルがシームレスに移行できるんですよ。リザルトもファンファーレが鳴って表示されるのではなくて、画面の横にババババッと表示されたり、レベルアップもジャキーン! と表示されるのでテンポが速くて。コマンドバトルなのにアクションゲームみたいなペースで進むんです。 ひと通り操作を覚えたころには、フィールド上のバトルとコマンドバトルをサクサクと切り替えながら進めるようになるので、動きが途切れないんです。動きが途切れることなく操作できるようになって、「オレ、スゴくない!?」みたいな感じで、優越感に浸れるんですよね。 戦闘を簡単にするんじゃなくてレスポンスを最大限上げて、マシンスペック的にもこれ以上は上がらないよ、というところまで良くしたのが『黎の軌跡』です。それに加えて、ちょっとしたアクションとの合わせ技が、新鮮に受け取ってもらえるんじゃないかと思っています。──コマンド式のRPGで、ここまでテンポ感を重視するというのも、なかなか珍しいというか。近藤氏: ユーザーの方から「テンポが悪いのが「軌跡」の最大の欠点」と言われてきたので、今回は逆に、テンポの良さをいちばんの武器にしたいなという気持ちがありまして。──移動時のフィールド上のバトルとコマンドバトルで、ある意味、2種類のバトルを用意しているのと同じですよね。それは開発の手間が2倍にはならないのですか? 近藤氏: 2倍ではないですけど、苦労はしていますね。少なくとも1.5~1.6倍はありそうです。移動時のフィールド上のバトルとコマンドバトルで、それぞれ別々に難易度を設定できたりもするので。実際のところ、「ゲームを2本作るつもりなのか」といった反対意見もありました。でも、こうしてまとまってみると、新しいし手応えもあるのでいいんじゃない、と思っています。──今回のその戦闘のシステムは、社内から出てきたアイデアなんですか? 近藤氏: そうですね。わりと最近入社したスタッフから出てきたアイデアではあったんですけど。たしかにオリジナルの「軌跡」スタッフでは考えつかなかったね、というものにはなっています。ユーザーさんも「あれ?」って思うんじゃないかなと。──現在、コンソールゲームが全体としてはどんどんとアクションに寄っていっている中で、「コマンド式RPGを遊ぶことの良さとか楽しさって何だろう?」と思うんです。その答えのひとつとしては先ほど言われたように、街の人のセリフがどんどん変わっていって、メインのストーリーだけではなくて世界全体から物語が見えてくる、みたいなところがあると思うんですけど。近藤氏: 物語を語るゲームシステムとしては、僕はRPGが好きなんですよ。アクションで物語を語るのは、たとえば『イース』に「軌跡」シリーズのストーリーを積んだとしたら、それはシンドイと思うんです。アクションがあれだけサクサク進んで、その後にイベントを30分見るとなると、それはさすがにね、と。 さきほどユーザーさんも『イース』と「軌跡」では温度差があるという話をしたんですけど、それは硬派であるとか軟派であるとかいった話だけでもなくて、「軌跡」シリーズの場合は「物語をゆっくり楽しみたいからアクションはちょっと……」という方も多いんです。だから「「軌跡」をアクションにしよう」という話は何度もあったんですけど。もしそうだとしてもセミアクションぐらいがいいんじゃないか、という答えになったのが、今回の『黎の軌跡』なんですね。──アクションとコマンドバトルで、それぞれの欠点はなんだと思います? 近藤氏: アクションはやっぱり、苦手な人が遊べないことですね。アクションが本当に苦手な人って、十字キーとAボタンを同時に押せなくて、斜めにジャンプできないんですよ。「軌跡」を好きな人たちの中にはそういう人もいて、その人たちは『イース』を遊べないんです。「軌跡」シリーズと『イース』が混ざる必要はないし、だから僕は最初、「軌跡」でアクションをやらせるのは反対だったんです。 一方でコマンド式のRPGはしばらくのあいだ、世界的に進化が止まっていましたよね。でもそれが一巡して、外国の方がインディーでRPGらしいRPGを作り始めて、いまはまた動き始めたような気がするんです。いったん進化の止まっていたRPGのコマンドバトルが、再進化していくタイミングが来ているような気がしていて。 とにかくいまは、『黎の軌跡』の戦闘がみなさんにどのように受け取ってもらえるのか、すごく楽しみなんです。これは「軌跡」シリーズを17年続けてきて、「戦闘ダルいよ」と言われていたことへの答えにもなっていると思いますので。■限られた期間の中で最大限努力することで、良いものを作ることができる──『黎の軌跡』を遊ぶにあたって、過去のシリーズ作に触れておいたほうがいいのですか? 近藤氏: 遊んでいたほうがちょっとした小ネタも楽しめますけど、区切りとしては『黎の軌跡』から遊んでいただいても問題ないというコンセプトになっています。それはスタッフにも口を酸っぱくして言っていますので。主人公がガラッと変わりますし、登場人物もほとんどが新規になりますので、一度説明したことも最初から説明しましょうという形にしています。──『黎の軌跡』の開発自体は、何年ぐらいやられていたんですか? 近藤氏: 本当に初期から言えば、ちょうど3年になりますね。『閃の軌跡』が終わった直後からスタートしているので。 いちばん最初に『空の軌跡』を作ったときに社内で言われたのが、「売れなきゃ続かないよ」という言葉で。当たり前のことなんだけど、グサッときて。だったらケチらないでやるべきことは全部やろう、考えつくことはなるべくやっておこうと思うようになったんです。 当時はベテランの先輩が2~3人いらしただけで、あとはほとんど若手だったんです。──ということは、その時のチームの平均年齢は、20代半ばぐらいですか。近藤氏: そうですね。がんばりすぎて、長引きすぎて、「いま、半分です」と言ったら「もう出せ」と言われて。それで『空の軌跡 FC』と『空の軌跡 SC』に分かれることになったんです。 でも、そのときの反省があって。『零の軌跡』以降、1本目は2~3年かけるんですけど、2本目は1年で出しています。「軌跡」シリーズの場合、2本目、3本目はデータを継承しますから。そうすると2年に1本ですよね。RPGの制作期間としては標準的か、むしろ短いぐらいで。しかもその間に『イース』を水面下で走らせておいて、あいだに挟んでいくと毎年出せる。まぁ、たいへんではありますけど(笑)。──なるほどなと思いつつ、なんだか騙されている気もしますね(笑)。近藤氏: 前作とデータを共有して作業を圧縮しつつ、シナリオはもちろん新作だし、新キャラだとか新ダンジョンを加えて……ということをきちんとやって。「データの使い回しじゃないか」と言われないようにする工夫を、がんばってしていますから。最初の『空の軌跡SC』のときは言われましたよ。「使い回しじゃないか」って。でもプレイしていただけると、中身がしっかりしているので「これはこれでアリなんじゃないか」と受け入れられて、現在まで引き継がれているんです。 当時、2ちゃんねるのひろゆきさんがプレイして解説してくださったんですよ。「『空の軌跡 SC』は強気」、「“だからどうした”って作りなんですよ」と。あのときはちょっと励まされましたね。──そこにもやっぱりファルコムらしい考え方がありますよね。「とにかく良いものを出すんだ」という。近藤氏: 会長の加藤がよく言うのは「時間はかけるな。でも手は抜くな」ですから(笑)。──その回答がまさに、いまのようなお話じゃないですか。近藤氏: ただ長く作り続けても、良いものはできないんですよ。期間が決まっていて、その中で最大限工夫することで、終わりが見えるというか。終わるためには考え続けて、毎日判断していかないといけないんです。よく「なんで毎年出せるんですか?」と聞かれるんですけど、答えはそれだけのことだと思っています。──コンテンツを作る会社さんで、「終わる哲学」をそれだけしっかりと持っているところは珍しいですね。時間を長くかければかけるほどいい、みたいな考え方も多い中で。近藤氏: 社内にも、そういう考え方の人もいますけどね。 ゲーム制作の終盤では、いろんな物を詰め込みすぎてまとまらない、ということが多くて。僕が若かったころの仕事は、取捨選択していくことがメインだったんです。取捨選択して残った良いものを、さらに良いものに仕上げるということだけを考えていて。取捨選択してこぼれたものの中に、本当に良いものがあったとしたら、それは次回作でやったらいいじゃんと。それをずっと続けてきたら、「軌跡」シリーズのような制作手法になった感じですかね。──モノ作りでは足す作業だけじゃなくて、引く作業も重要じゃないですか。引く作業をどれだけ精度高くやるかというのが、ファルコムの良さなのかなと。近藤氏: 「もう終わりなんだ」と決めることで、スタッフも力が出るんですね。でも、とりあえず決めるのはダメなんです。とりあえず決めると、心のどこかで「まだ決めていない」となってしまう。だから本当に決めることが大事で。──それは開発の各部署で権限のある人がそれぞれ決めるのですか? それとも近藤社長が? 近藤氏: 自分が「決めるよ」、「終わるよ」という号令を出しますね。開発の現場は決めたがらないですから。それでも最初は「本当に?」、「冗談でしょ?」みたいな感じになっちゃいますね。「社長はマジなんだ」っていうところまで持っていかないと、「延ばしてくれるんでしょ」となっちゃうので。 でも終わった後に「終わるって決めて良かったでしょ?」と聞くと、みんな「良かった」と言うんですよ。「だから終われた」、「苦しかったけど良かった」と。■いつかはベテランの開発スタッフと「思いっきりファルコムっぽいゲーム」を作りたい──「軌跡」シリーズには大勢のキャラクターが登場して。それぞれに声優さんを起用されていると思うのですが、声優さんを起用されるにあたっての指針とか考え方はありますか? 必ずしも有名な声優さんを並べているタイプでもないと思うので。近藤氏: 商業的に有名な方にお願いするという場合もありますし、現場の意見も一応反映はさせますし。あとは、僕らは声優さんを知っていると言っても「あのキャラの声の人」という形でしかわからないじゃないですか。僕らは知らないけど実力のある人も大勢いらっしゃるので。 そこは仲介してくださっている会社の方に相談して、「こういう役柄で実力のある方はいませんか」みたいな相談をすることもありますし。その3つを混合して決めていくことが多いですね。あとはもちろん予算の問題もありますので。現場の意見だけを聞いていたら、ものすごい金額になってしまいますから(笑)。 声優さんとお仕事をすると、こちらが引き締まりますよね。声優さんは現場でのプロとしての雰囲気を、すごく持ち合わせていらっしゃるので。声優さんだけじゃなくて音響の方やディレクターの方もそうですが、限られた時間でよくあれだけの仕事をこなせるなと、本当に影響を受けています。 「軌跡」シリーズの声優さんがもし他のゲームと違う点があるとしたら、僕らはおじさんの声を重視しているんです。『英雄伝説』では、主人公を導く大人の存在が重要だったりするので。そういうポジションに演技力のある声優さんがいてくださると、ストーリーに説得力が生まれますよね。そこは仕掛けたいなという気持ちで選ぶことはありますね。──ファルコムさんは音楽のイメージも強いですよね。音楽に対するこだわりというか、守っているものはあるんですか? 近藤氏: ゲームにまだ音楽がなくて、効果音みたいな電子音が鳴っているだけの時代に、起承転結のある音楽を入れるというのを切り拓いてきた会社でもあるので。そこに対するプライドみたいなものがあるんじゃないかと思います。それは僕よりも先輩たち、いまいる役員であるとか、創業者の加藤の話ではあるんですけど。 加藤が言っているんですけど、音楽を作るときのルールが3つあるんです。「一度聞いたら忘れられないメロディ」、「サビを必ず作る」、「起承転結のある構成」と。 でも逆に言うと、その3つぐらいしかルールがないんですよ。それから「まだタイトルが決まっていなくても曲を作れ」という時期があって。もうゲームがあってその曲を作るというのも、もちろんあるんだけど、「軌跡」か『イース』か決まっていないんだけど、とにかく曲を作るということもあって。 それは単純に、ゲームとは関係なくても「音楽として良いものを作りなさい」ってことだと思うんです。さっきの3つのルールもそうですよね。それは普通に名曲のルールなので。──ファルコムさんは、音楽ライブも有名です。近藤氏: ライブに関しては、運営をできる人間が社内にいるのが大きいですね。バンドのメンバーを社内でオーディションしたり、会場も自分たちで探してきたりできるので。音楽ライブはたしか、一回も赤字を出したことがないんじゃないかな。それがけっこうなハードルにもなっているんですが。 ファルコムには「トータルで赤字になっていなければいい」という発想がないんですよ。CDを出したらそれ1枚で採算が採れていなきゃいけないし、イベントをやったらそのイベントだけで採算が採れていなきゃいけない。そういう経営が伝統になっているんです。──それはかたくなに守らないといけないことなんですか? 近藤氏: 状況によると思いますね。「こういうことをやったらおもしろいよ」という場合もあるとは思うので。でも昔から慎重なところはありますよね。石橋を叩いても渡らないというか(笑)。 僕らはいろんなことを追いかけられるほど器用じゃなくて、ずっと同じことを繰り返しやっているんです。その中で巡り巡って40年続いてきたので。ただその都度、いまやれることを最大限にがんばろうよと。できないことはやらないんだけど、いつまでもトライしないんじゃなくて、できるようになるやり方を考えようっていう。 入社3年目や4年目の人間にRPGの開発を任せることなんて、普通はなかなかないと思うんですけど、その適性を見抜いて任せる、みたいなところもありますので、そういうところはなるべくなくしたくないと思っています。いまはシリーズ作が続いていて、そういうチャンスが社内で減っているのが、気がかりではあるんですけど。とはいえ『創の軌跡』や『東亰ザナドゥ』みたいなやり方を、今後も織り込んでいければと思います。──シリーズ作といえば、ファルコムさんには「軌跡」や『イース』以外にも、さまざまなタイトルがあると思いますが。そうしたタイトルについては、どうお考えですか? 近藤氏: 『空の軌跡』のリメイクもそうなんですけど、そういった過去のIPをちゃんと活用する事業部が、本当はあるべきだと思うんです。とはいえ、片手間にやるというのが許されない会社ですから。 ベテランのスタッフとのあいだで「ものすごくファルコムっぽいゲームを作りたいね」と話すこともあります。本当に古い人だと、それこそ『ブランディッシュ』でドットを打っていたような人たちが、『黎の軌跡』でいまも3Dをやっていたりするんですよ。そういう人たちが、「軌跡」シリーズの根幹のゲームバランスに対して意見をくれたりしているんです。彼らはまだまだ現役ですから。 そんな彼らが、『ダークソウル』が出てきたときにすごく悔しがっていたんです。「なんでこれをウチが出してないんだ」って。彼らが作りたいのはやっぱり『ブランディッシュ』や『ソーサリアン』や『ザナドゥ』の系譜で。それがいま、途絶えてしまっているのは、個人的にも残念ですね。なので、せめて『イース』でゲーム性を追求したりしているんですけど。 だから、いまの仕事をみんな若手に任せられるようになって、我々が定年間際になったら、そういった思いっきりファルコムっぽいゲームをやりたいなと。「ファルコム引退組」みたいなレーベルでも作って(笑)。■Nintendo Switch版「軌跡」とPS4の『黎の軌跡』で、シリーズを新たに手に取る人が増えてほしい──今年の夏にはNintendo Switchで『閃の軌跡I:改』『閃の軌跡II:改』が発売され、『閃の軌跡』4作品すべてをSwitchでプレイできるようになったほか、Switch版『創の軌跡』もリリースされるなど、Switchで「軌跡」シリーズを遊べる環境がかなり整いました。近藤氏: もともと僕らのタイトルは超メジャーなものではないので、手に取っていただけるところの裾野は、どんどん広げていかなくてはと思うんです。なのでSwitchは、ずっとやりたかったハードです。ユーザーさんの中には、ファルコムは任天堂さんと折り合いが悪いと誤解されている方もいるみたいなのですが、まったくそんなことはなくて。ただ、自分たちの力だけではなかなか一度にはできませんので、クラウディッドレパードエンタテインメント(以下、CLE)さんや日本一ソフトウェアさんのような会社さんと、一緒にやっていければと思っています。 1年ちょっとのあいだに『閃の軌跡』4作品をSwitchで出すというのは、やっぱり社内のリソースだけでは無理ですよね。全部をそこに集中させればできないこともないんでしょうけど、そうすると『黎の軌跡』が3年後、5年後になってしまいますから。──Switch版『閃の軌跡I:改』、『閃の軌跡II:改』や『創の軌跡』の発売をCLEさんが手がけているのは、どういった経緯なのですか?  CLEさんにはもともと海外での展開をお願いしていたんですけど、それをきっかけに「国内もどうですか」というお話をいただきました。CLEさんが僕らのタイトルを非常に良く理解してくださっているのは、これまでのおつきあいでわかっていましたし。海外だけでなく国内もセットでやっていただいたほうが、CLEさんのモチベーションも高いんじゃないかという期待もあったので。ただ、『閃の軌跡III』、『IV』はすでに日本一ソフトウェアさんがやられていたので、『I』、『II』をお願いする形になりました。 CLE代表取締役の陳云云さんは、もともとSIEにいらした方で。『閃の軌跡II』の発表直前に突然会社に来られて、「私は『イース』で日本語を覚えました」と告白されたんです(笑)。その2時間後には「一緒にやりましょう」と決めました。それが2013年12月だったんですけど、翌2014年の9月には『閃の軌跡II』を日本とアジアで同時発売しましたから。──それはスゴイ!近藤氏: でも僕は、陳さんはきっと途中で音を上げると思っていたんです。「軌跡」シリーズの翻訳コストはなにしろ膨大で、こちらから営業をかけても断られていたぐらいなんですよ。しかも僕らは、9月に発売だとしたら7月ぐらいまでゲームを作り込むんです。だから普通は「できません」となるところですけど、陳さんはやりきってしまって。なので、非常にパワフルな方という印象ですね。──では最後にNintendo Switchで新しく「軌跡」シリーズに触れるみなさんと、PS4で『黎の軌跡』が発売されるのを楽しみにしているみなさんに、それぞれメッセージをお願いします。近藤氏: まずはSwitchのユーザーの皆様に、「軌跡」シリーズというRPGがあることを知っていただきたいと思っています。僕たちはRPGを長年に渡って作ってきておりまして、その中でも「軌跡」シリーズは緻密なストーリーがウリになっています。Switch版の登場で、「軌跡」シリーズを手に取っていただける人がさらに増えてくださることを、大いに期待しております。 それから、いままで「軌跡」シリーズに興味はあったけれど、テレビの前でどっしり構えて遊ばなければいけないので躊躇していた方もいらっしゃると思います。Switchで発売されて手軽に遊ぶことができるようになりましたので、そうした方もぜひ手に取っていただきたいと思います。   一方で、僕らは10年以上プレイステーションプラットフォームでやってきて、そこにも大勢のお客さんがいらっしゃると思います。「軌跡」シリーズは舞台が変わるたびに毎回、初見の人でも遊びやすいシリーズとしてリスタートしていますので。おもしろいRPGをひさしぶりにやりたいなという人はもちろんですが、以前から「軌跡」シリーズが気になっていたけどまだ遊んでいないという人も、今回の『黎の軌跡』は非常に良い機会になると思います。僕らとしても、新しいチャレンジにたくさん挑んでいるタイトルですので、ぜひそういったところに注目してもらえたらうれしいですね。──ありがとうございました。(了) 日本ファルコムという名前に愛着のある、筆者のようなロートルのパソコンゲーマーにとっては、「軌跡」シリーズはまだまだ新しいタイトルという印象だろう。しかし、第1作である『空の軌跡 FC』の登場から17年、コンソールのPSPにオリジナルプラットフォームを移した『零の軌跡』からでも、すでに11年が経過しており、いまでは日本のRPGの歴史に堂々と名を連ねる人気シリーズと呼ぶことに、誰も異論はないはずだ。 PCの世界では老舗メーカーだった日本ファルコムも、コンソールのゲーマーには当初あまり知名度がなく、PSP版『空の軌跡 FC』の初回出荷は1万8000本程度だったという。それが最終的に40万本以上の大ヒット作となった理由は、シナリオからゲームシステム、そして手触りの快適さに至るまで、丁寧に作り込んでいく日本ファルコムの開発姿勢にある。そのことは今回の記事での近藤氏の言葉からも、非常によく伝わってくる。 しかも同社の作り込みは、決して現状維持に留まらない。取材時に、最新作である『黎の軌跡』の開発バージョンを見せていただいたが、フィールドでの移動と敵とのバトルがテンポ良く進んでいくため、横で画面を見ているとほとんどアクションRPGのような印象を受けた。このようにシリーズの魅力を守ったうえで、ときには大きな変化を加える思い切りの良さも、長年に渡ってゲームを作り続けてきた老舗だからこそ可能な決断力だと言えるだろう。 「軌跡」シリーズは最新作の『黎の軌跡』から新たな展開に突入する。日本ファルコムの名前を以前から知る人も、その名前を今回の記事で初めて知ったという人も、PS4やSwitchといったさまざまなハードでぜひ、「軌跡」シリーズに触れてみてほしい。■「軌跡」シリーズオープニング映像を10間連続でTweet 8月27日にNintendo Switch版『英雄伝説 創の軌跡』が発売され、9月30日には最新作『英雄伝説 黎の軌跡』の発売を控えている「軌跡」シリーズ。この機会に17年の歴史を誇る「軌跡」シリーズをもっと知ってもらうべく、電ファミニコゲーマーTwitterアカウントにて歴代「軌跡」シリーズのオープニング映像を9月9日~18日まで10日間連続で投稿を行なっている。 このページにオープニング映像Tweetをまとめていくので、遊んだことのある方は思い出に浸っていただき、遊んだことのない方は興味を持っていただければ幸いだ。

電ファミニコゲーマー:TAITAI、伊藤誠之介、佐々木秀二

最終更新:電ファミニコゲーマー

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