猫を飼おうとした独身男性がぶつかった壁 やっと出会えた姉妹猫「スーパー可愛い」 | 犬・猫との幸せな暮らしのためのペット情報サイト「sippo」
単身者。男性。これは高齢であること以外に、保護猫の譲渡先として“選ばれにくい”要素だといわれています。独身は留守がち、男性は虐待率が高い?規定理由は団体でそれぞれのようですが、ある独身男性が猫を飼おうとして、引っ越しまでしたのに“壁”にぶつかりました。しかし諦めず、保護主(団体)とコミュニケーションをよくとるなどして縁を手繰り寄せ、2匹の家族を迎えることができました。
(末尾に写真特集があります)
キャットウォークが巡らされた部屋
都内杉並区の住宅街の一角。猫のオブジェがゲートに飾られた、猫共生型住宅がある。1階と2階に1戸ずつの、おしゃれな建物だ。
呼び鈴を押すと、にこやかに飼い主の会社員、耕太さん(38歳)が出てきた。
「奥に“カノミク”がいます。名前のカノコとミクリを合わせてそう呼んでいるんです(笑)。生後7カ月ですが、すごく元気でにぎやかですよ」
家にあがると、すぐに広めのキッチン。その先のドアを開けると居間があり、壁にキャットウォークが数段、巡らされている。キャットウォークの最上段が隣の寝室と猫トンネルでつながり、洗面所のドア下にも猫トンネルがある。
黒猫が2匹、「誰、誰?」というようにこちら見あげて、一匹が隣の部屋にだーっと走っていった。その後をもう1匹がぱたぱたと追いかける。確かににぎやかだ。
「猫は可愛いと思っていたけど、こうして身近に一緒にいると、スーパー可愛い。生き物を飼う大変さももちろん感じていますが、楽しいですね」
まずは家探しから
姉妹猫のカノコとミクリを迎えたのは、昨年11月。耕太さんは子どもの頃から猫が好きで、猫を拾って家に連れて帰ったこともあったが、親に反対されて飼うことができなかった。
30歳になり一人暮らしを始め、「猫を飼うこと」を目標に掲げ、仕事をがんばった。30代半ばを過ぎ、心に余裕ができたところで、まず住環境を整えることにした。
「一昨年くらいから、猫の飼い方をネットで調べ、ペット可物件探しを始めました。そうしたら、猫と人が暮らしやすい猫共生型住宅を建てている方がいると知り、興味を持ったんです。“猫はストレスがたまらないのが大事”というし、猫専用ならいいなと思って」
不動産サイトで情報を追うと、前の家から近いところにその猫専用物件が建つことがわかった。そして昨春、入居者募集と同時に内見をし、猫と住むシーンを想像しながら申し込みをした。契約の審査は問題なく通り9月に引っ越してきた。
耕太さんは、家に少し慣れたところで猫探しを始めた。飼うなら「保護猫」と決めていたが、思わぬ事態が起きた。譲渡の審査が通らないのだ。
肝心の猫が決まらない
「家族を探すサイトを通して保護団体に猫の申し込みをしたのですが、断られました。いちばんの理由は“単身者”で、しかも“男性”だから。別の団体に申し込みをすると、やはり同じ理由で断られました。規定上、男性は虐待が懸念されるので、と……。まさかと思いました。僕自身を疑っているわけではないのですが、男というだけでダメだったんですから」
耕太さんは悔しくて、男性による動物虐待が本当に多いのか、調べてみたという。
「環境省のホームページなどで動物虐待の事件の資料を見ると、男性の方が女性より確かに少し虐待は多い感じでした。だからといって、男=NGはショックですね。それで僕は、『猫専用アパートに引っ越した』とアピールしてみたんです。そうしたら、二つめの団体の方が『そうなんですか?』と少し態度を変えて、話を聞いてくださいました」
それでも、最終的には(規定のため)団体として認められないという返事だったという。
耕太さんは壁を打破できない焦りから、ペットショップに猫を見にいったこともあった。しかし驚くほど高額だったし、猫を「買う」ことにはやはり抵抗があった。
猫可物件で一人だけでこのまま暮らすのか……。もんもんと落ちこむなか、ふいにいい知らせが飛び込んだ。
「入居してしばらくして入り口に猫のオブジェが取り付けられたのですが、工事に立ち会っていたオーナーさんと話す機会があったんです。『一緒に住む猫ちゃんは決まりましたか?』と聞かれたので、『立て続けに保護団体に断られて』と状況を伝えたんです。そうしたら、いい人を紹介すると言って下さって……」
紹介されたのは、オーナー自身が過去に猫を譲ってもらったというボランティアだった。
「また断られないだろうかと心配もしたのですが、単身だからダメとか、男性だからダメというそぶりはまったく見せず、『どんな猫がいいですか?』と聞いてくれて、うれしかった」
耕太さんが「黒猫がいいと思う」と話すと、ちょうど保護しているという。写真とプロフィールを見せてもらい、11月初めに会いにいった。
迎えてからもハラハラ、ドキドキ
「もともと1匹飼いのつもりでしたが、『2匹だと一緒に遊んでくれますよ』と言われて。アパートのオーナーに聞いたら、2匹飼っていいですよ、というので姉妹でもらうことにしたんです。ボランティアさんが付けた名をそのまま受け継ぎました」
猫の勉強はしていたつもりだが、いざ迎えると、戸惑うことや、驚くこともあった。鼻水やトイレのことなど、保護主のボランティアにはラインで逐一報告をした。2匹の様子をいつでも見てもらえるように、インスタも始めた。
「姉妹で行動が違うんですよね。初日、体の小さなカノコはビビって隅っこに隠れ、ミクリは堂々と部屋を探検していました」
夜になるとカノコが大きな声で鳴き始めたので、ネットで「猫 鳴き声」で調べると、「さみしい」というワードが出てきたという。
「カノコのそばにいってなでようすると、怖がって余計に逃げる。このまま気にいられなかったらどうしようと焦りました(笑)。ところが1週間くらいすると、カノコが隅から出てきて、なでてほしいみたいな感じで急に僕に甘えだしたんです」
ひざに乗ってグルグルとのどを鳴らす。それを体感してうれしかったし、驚きもしたという。
「猫たちが家でリラックスした状態になれたのは感動的でしたね。カノコのグルグルは人のおなかがグーと鳴るくらい大きい。とにかく、甘えのスイッチが入ったら、カノコはどんどん僕に慣れて“デレ”になり、一方、堂々としていたミクリは僕との間に絶妙な距離をとり、近づくとぷいと離れて“ツン”になって。合わせてツンデレですね(笑)」
それでも、カノコがひざに乗った1カ月後、ミクリもひざに乗って甘えてくるようになった。耕太さんの二の腕で、モミモミをすることもある。
「ミクリはお姉さんぽいのかな。カノコがわんわん鳴いている時は『どうしたの?』と見に行き、カノコが僕に甘えるようになった時は、『私は大丈夫だから』とふるまって。僕にできないカノコのケアをミクリがしていた気もします。そういう意味でも2匹一緒でよかった」
男性が猫を飼うために必要なこと
いっときは、“飼えないかも”と思った耕太さんだが、とにかく今は、猫との生活をエンジョイし、幸せを感じているという。
この2カ月で“カノミク”姉妹はぐっと成長し、体も大きくなってきた。初めての猫との暮らしにも慣れてきたそうだ。
「多少の運動会なら平気で寝ていられます(笑)。仕事はテレワークですが、出かける時には『長く家をあけないように』と思うし、帰るきっかけも『猫は大丈夫かな』。大きくなったといっても、まだ子どもで2㎏足らずですからね。これからの成長も楽しみです」
もし同じような状況で、“飼いたくてもなかなか飼えない”という男性がいたら、どんなことを伝えたい?最後にそんなことを聞いてみた。
「ウェブでの募集だとメールや電話でのやりとりから始まると思うけど、回数を重ね、顔を合わせるくらいのところまで進められるといいですよね。そのためにも、積極的に自分からコミュニケーションを取りにいく姿勢を持つのもいいと思います。性別の問題は絶対的なものでなく、大事なのは、保護主や保護団体さんに、どれだけ人となりをアピールできるかだと思うんです」
女性であっても、単身であることを理由に断られることがある。断られたその団体の譲渡会に再び行き、猫の方から近づいてきて、「この子どうですか?」と薦められた例もある。
諦めなければ、“縁”はいつか最良のタイミングで、訪れるものなのかもしれない……。
「パパ遊ぼう」「私も」可愛い2匹が、赤い糸で結ばれていた耕太さんに駆け寄ってきた。
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