「朝礼だけの学校」校長・藤原和博さんが高校生と保護者に伝えたい これからの時代に必要な情報編集力とは
パソコンを使った「探究」で、情報編集力を育もう
今やほとんどの高校生がスマートフォン(スマホ)を持っていて、YouTubeやSNSなどを使いこなしています。奈良市立一条高校の校長だった時(2016年~18年)、生徒のスマホを学校に持ち込ませて、Wi-Fiでつないで授業に活用していました。その時に分かったのが、今の若い人は分からない言葉を詳しく調べるより、正解を一発で求める傾向にあるということです。
私がパソコンを使って調べる際は、検索したいくつかの結果を比較検討します。検索サイトの一番上に出てくる情報を必ずしも信頼するわけではなく、個人がニュースを解説しているサイトが3ページ目に見つかって、それが最も参考になることもあります。ところが、彼らはそんな面倒なことはしません。スマホで検索し、答えになる動画を探し出すわけです。情報を受動的に受け取ったり、直感的に表現したりするだけならスマホで十分ですが、「探究」をするためには今のスマホでは難しいでしょう。つまり、興味に沿った情報を集めて精査し、編集してプレゼンする必要が出てくると、パソコンの出番になります。
パソコンを使って子どもたちの可能性を伸ばすことができるのは、「情報編集力」です。多様な答えがあり、複雑に変化する成熟社会において、情報編集力は、たくさんの仮説を考え出し、その中から自分も他者も納得できる仮説、「納得解」を創造する力を意味します。「二項対立の構図」や「正解至上主義」ではなく、複眼的思考を育むツールとして、パソコンは役立つのではないかと思います。
高校生にこそ必要なアクティブ・ラーニング
これまでの学校では、授業で意見を求められて手を挙げるのは、成績が優秀な子や、普段から活発に発言する子など、限られた生徒でした。私は一条高校の校長時代、授業中にスマホを使い、無記名で生徒から意見や評価を集めていました。そうすることで全員が頭を動かし続けることができ、授業に参加する動機づけにもなります。
「情報をつくる立場」の先生に対し、生徒が自分の意見を発信して、情報を先生の方に「逆流」させることこそ、ICT教育の魅力です。義務教育までは、基礎学力を身につけるという意味で受動的な学習も必要ですが、高校生は「情報をつくる立場」を学ぶべきです。こうしたアクティブ・ラーニング(能動的学習)を進めるうえで、能動的に情報を発信することができるパソコンは今後ますます必要とされるでしょう。チャットツールを使えば面白い授業も展開できると思います。
将来は、特殊なメガネをかけると複数の大画面が映し出され、編集ができる時代が来るかもしれませんが、今の高校生が探究学習をしたり、大学生が論文をまとめたりするには、当面パソコンが必要となります。ビジネスでも必須ツールです。スマホだけで動画撮影から編集までしてしまう人もいるけれど、ビジネス界で影響力を持ちたいと思ったらプレゼンしたり、自分の考えを深めたりできるパソコンが欠かせません。リモートワークで自宅のノートパソコンを使って会議をするのも日常的になりました。パソコンを使って早くから情報の編集や発信に慣れておくことは、これからの人生でも役に立つでしょう。
「情報を生み出す側」の立場を理解する
パソコンは、中央の巨大なコンピューターから情報を受け取る機器(端末)、という側面もありますが、本来は編集機であり、発信機でもあるはずです。ゲームで言えば、人がつくったゲームを遊ぶ「ゲーマー」から、パソコンを使って自分でゲームをつくる「ゲームメーカー」になることができます。
親の立場としては、自分の子どもを「端末」にしたくないのなら、情報を受け取るだけでなく、「情報を生み出す側」にしてあげるべきです。自ら発信してつくりだす側になることで、思考力や判断力が磨かれ、メディアなどさまざまなものに対するリテラシーも身につけることができるようになります。パソコンやスマホの「使い方」は親や先生がいくら注意しても伝わるとは限らず、自分で気づけるかどうかが大切なのです。
情報編集力を鍛えるためにパソコンが有用なのは、「修正」に適しているという点もあります。正解があるとは限らないものに対しては、試行錯誤を重ね、修正しながら納得できる道を探究し続けなければなりません。パソコンなら、出力したものをどんどん直すことができます。さらに、自分の知識や経験だけでは足りないものを、他人のものとつなぎ合わせることで、考えを「拡張」させることもできます。パソコンがないと思考は限定的になってしまうでしょう。
コロナ禍にあってオンラインで授業を受ける子どもが増えたことは、私は逆にチャンスだと考えています。オンラインの向こうに、いくらでも恩師を見つけられる時代になったわけですから。たとえば英語だと、ネイティブの発音を海外の人から積極的に学ぶことができますし、自分の意見をどんどんしゃべって場数を踏むこともできます。試行錯誤をしていくことで、自分が本当に英語で表現したいものが見つかって、それがたぶん個性になると思うのです。
子どもの可能性を伸ばして、グローバルな発想力を
「自分の子に情報編集力をつけさせるには、どうすればいいのですか?」という質問をよく受けます。重要なのは、10歳くらいまでにどれだか遊ばせたか。正解のない遊びの世界の中で、どうやってみんなが楽しめるかという納得解を見つけることが、情報編集力の基盤になります。それができなかった子どもには、自ら世界に目を向けるような経験をさせることが大事だと思います。
私の教え子には、大学を中退して起業し、日本の農協のシステムをアフリカに広める仕事をしている若者がいます。国内の市場で成長してから海外に進出するのではなく、いきなり世界を相手にして、大統領と直接話をしたりするわけですから。我々が考えていた従来のビジネスとはちょっと発想が違いますね。
彼の仕事のやり方を見ていると、パソコン1台さえあればそこが事務所になり、どこの国にいても関係ありません。世界中とつながって縦横無尽に人材や資金を集めようと行動している彼は、まさに情報編集力を鍛えた生徒の見本だと言えます。将来、情報編集力を高めた子どもたちがもっと増えて、世界で大成功を収めてくれることを期待しています。
【プロフィル】
藤原和博(ふじはら・かずひろ)教育改革実践家/「朝礼だけの学校」校長1955年東京生まれ。東京大学経済学部卒業後、リクルートに入社。トップ営業として頭角を現し、40歳で同社初となるフェローに就任。2003年には、東京都初となる中学校(杉並区立和田中学校)の民間校長となり、5年に渡って教育改革をした。アクティブ・ラーニングの手本となった「よのなか科」や、地域による学校支援組織「地域本部」の立ち上げで、教育関連などの賞を次々と受賞。大阪府知事特別顧問、奈良市立一条高校校長を歴任し、20年にオンラインコミュニティ「朝礼だけの学校」を開校した。著作は『10年後、君に仕事はあるのか?』(ダイヤモンド社)、『35歳の教科書』(幻冬舎)など累計89冊154万部。YouTubeは300万回超再生。活動の詳細は(http://yononaka.net)。
高校生の「深い学び」を後押しするマイクロソフトの教育ツール
高度に情報化した未来社会「Society5.0」を見据え教育現場では、生徒の多様性に応じた深い学び、能動的な学び、協働的な学びの力を育む教育が求められつつあります。求められているのは、困難に直面したとき問題を解決する「プログラミング的思考」のできる人材の育成です。ゴールに向かって、考え、判断し、表現する一連のプロセスは、あらゆる職業で役立つと言われています。Microsoft 365 Educationには、そんなプロセスを後押しするアプリケーションがそろっています。今回は、日本マイクロソフトの担当者に、その特長と高校生にオススメの使い方を教えてもらいました。
オンライン授業が広がる今、注目したいのが「Teams for Education」です。オンラインで授業が受けられるのはもちろん、チャットやグループ会議、ファイルの共有、授業などのスケジュール管理が一括してできるのが特長です。特にチャット機能は、発言している人にリアルタイムで質問や感想を投げかけたりもできるため、音声による議論よりも「発言機会」が増え、高校生が能動的に学習する意欲をかき立てます。さらに、資料を画面上で共有すれば、視覚的な理解も深まり、議論をより活性化させることができるでしょう。
「OneNote」はノートをデジタル化することができます。先生とノートを共有すれば、先生は生徒の学びのプロセスをノートの内容から知ることができます。一方、生徒は動画や画像をはじめ、さまざまな情報を取捨選択し、自分の気付きとともにまとめることができるので、より深い学びが可能になります。
「Teams for Education」は、文科省の「GIGAスクール構想」(※1)の推進に伴い、小中学校を中心に導入が広まっています。遠隔授業だけでなく、教室での対面授業でも「Teams for Education」を使って課題を提出したり、アンケート作成ツール「Forms」で感想などをフィードバックしたりする使い方も始まっています。
※1: 児童・生徒が1人1台の情報端末を使って学べる環境を整備する文科省の構想
表計算ツール「Excel」は、理系の大学生や社会人向けの印象がありますが、高校生の探究学習にも最適です。化学や物理の実験データを入力し、グラフで統計分析をするなど、仮説を立てて自らが導き出した結論を論理的に説明する、まさに情報編集力を培う学びができます。アンケート作成ツール「Forms」と連携させれば、収集したアンケートの詳しい集計や分析も可能です。
データは、プレゼンテーションツール「PowerPoint」を使って視覚的にわかりやすく表現し、クラスで発表するのも良いでしょう。図の3D化にも対応しているので、立体的にイメージをつかみやすい資料が作成できます。
Microsoft 365 Educationには学校生活を盛り上げたり、楽しんだりするツールもあります。そのひとつが、プログラミングの体験のできる「Minecraft」です。電子回路のキットを並べ、動作を自動化するなど、子どものあふれる知的好奇心を刺激し、「ゲーマー」ではなく、「ゲームメーカー」の立場を理解することにもつながります。さらに、コミュニケーション能力、Javaのようなプログラミング言語、化学など、さまざまな可能性を広げるきっかけもなり、授業で取り扱っている高校もあります。
画像が取り込みやすく編集も簡単な「Sway」では、修学旅行や文化祭など、学校生活の写真をアルバムのようにまとめて共有したり、みんなでコメントを書き込んだりすることができます。
同社の担当者は「Microsoft 365 Education にはプログラミング、動画編集をはじめとしてより高度になる高校生の学びに最適なアプリケーションが多数搭載されており、高校生のお子さまが、学校の学びを通して将来社会でも活きるスキルを育むことができます。学校現場はもちろん、ぜひ親子でも体験してみてください」と話しています。
高校生の学びをサポートし、社会で生き抜く力の育成を支援いたします。マイクロソフトの教育ソリューション保護者の皆さまにむけてのご紹介ページはこちらから。
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