成功すれば幸せになれるのではなく、幸せだから成功する - 経済学からみる幸福とは?(門倉 貴史さんコラム - 第3回)
みなさん、こんにちは。門倉貴史です。
このコラムでは、経済学やお金の観点から見た幸せとは何か、をテーマにお話しさせていただいております。これまで幸福度が高まるお金の使い方や、働き方改革と幸福の関係についてお伝えしてきました。
最終回では“人はどうすれば幸せに生きられるのか”をテーマにしたいと思います。普通に考えれば、高収入を得て、社会的に成功すれば幸せになれる。そう考えがちですよね。でも最近の行動経済学や心理学の研究から、「成功すれば幸せになるのではなく、むしろ幸せな人が成功する」といった考え方が支持されるようになっています。10年以上ハーバード大学で幸福についての研究を続けている心理学者のショーン・エイカー氏の研究でも、仕事や健康、創造性などの多くの文脈で、成功と幸福は相互関係にあるということを発表しています。これはどういうことなのか。これから説明させていただきます。
社会的に成功すれば、お金持ちになって幸せになれる。そう考えて日々、必死に努力をしている人は多いと思います。そのために、何かを犠牲にしている人もいるでしょう。ただ成功者になったからといって、人は必ずしも幸せになれるとは限りません。
成功した後もさらなる成功を追い求め、大きなプレッシャーを抱えることもあります。また成功=幸せという発想をもつ限り、成功するまで人は幸せではない日々を過ごさなくてはなりません。そもそも社会のなかで成功者と呼ばれる人はごく一握りです。
こう考えると「成功すれば人は幸せになれる」というより、最近ではむしろ、「幸せであることが成功につながる」という考え方が、支持されるようになってきています。実際に、世の中の成功者を見ると、自分が好きなこと、やっていて幸せだと思うことをとことん突き詰めた人が多いように思います。自分が取り組んでいて幸せだと感じられるようなことでないと長続きしないし、努力できないからです。
近年の心理学の研究では、幸福を感じている人のほうが、そうでない人より生産性が高く、創造性が発揮されるとの報告があります。イギリスのウォーリック大学の作業実験によると幸福な人は、そうでない人より生産性が12%ほど高く、不幸な出来事があったり、気持ちが落ち込んでいたりする人は10%ほど生産性が下がる、というデータもあります。
確かに、暗い気持ちのまま義務感で仕事をしている人より、毎日、ワクワクと幸せな気分で仕事に取り組んでいる人のほうが、いい成果を出せそうなことは、誰もが直感的に分かるでしょう。幸福感そのものが競争力の源泉となる。そのような考えのもと、最近ではCHO(チーフハピネスオフィサー)という社員の幸福度向上を任務とする役職を設ける企業さえあります。
人が成功するうえではまず今、幸せを感じていることが大事である。頭ではそう分かっても、「現実に今、幸せを感じられていないから困っている」という人もいるのではないでしょうか。ではなぜあなたは今、幸福だと感じられないのか。それを考えるために、まず人はどんな時に幸福感を抱くかを考えてみましょう。
結論から先にいうと、人が幸福感をもてるかどうかに、現在の状況はそれほど関係ありません。例えば今、あなたは3,000万円の貯金をもっていたとします。でもそれが毎日、すごい勢いで減っていき、近いうちに一文無しになるとしたら、きっと毎日が不安で、とても幸福感などもてないでしょう。逆に今、年収は300万円でも、これから自分の収入が右肩あがりでどんどん増えていくことが確信できれば、毎日が幸福なものになるはずです。実際、プリンストン大学の心理学者のダニエル・カーネマン教授の研究では年収7万5,000ドルまでは収入に比例して感情的幸福は増えていくようです。
ようするに人は、未来に対して明るい希望をもっていて、将来は今より良くなると感じている時に、幸福感を抱くのです。第一回のコラムでお話しした、必ずしも収入の多さと幸福感が直結しない理由も、ここにあると思います。私は日本の若者より、東南アジアの若者のほうが元気で目が輝いて見えます。日本経済は衰退していくいっぽうなのに対し、東南アジアはまだまだこれから経済発展していくかもしれないという、各国の状況から感じるところも多いからです。
シンガポールの東南アジア研究所にてただ実際のところ、未来のことは誰にも分かりません。だから根拠のない自信をもち、何ごともポジティブに、楽観的に考えることが意外と大事なんです。実は僕はこう見えて、根はラテン気質なんです(笑)。ネガティブなことは考えず、面白そうだと思えば、気軽にトライするほうです。シンクタンクを辞めて独立した時も、先がどうなるかなんてまったく考えていませんでした。成功する起業家を見ても、失敗については心配せず、自分が面白いと思ったことにどんどん挑戦していく人が多いように思います。
また日々を幸せに過ごすうえでは、日常の小さな喜びを大切にすることも大切です。これは日頃のちょっとした心がけや気のもち方次第だと思います。とくに女性は自分にご褒美をしたり、友達とおいしいものや会話を楽しんだり、日常のなかで小さな喜びを見つけ、楽しむことが得意です。大きな目標達成のために日常の小さな喜びを犠牲にしがちな男性は、女性のこういうところを見習うべきだと思います。
最後に、毎日を幸せに生きるうえでは、自分の損得ばかり考えるより、周りの人の幸せを考え、行動することも大切です。人の幸せを自分ごととして喜べるようになれば、幸福感はより大きなものになります。米国のペンシルバニア大学の研究によると、常に自分の損得勘定で動く「ギブアンドテイク」の特性をもっている人の会社でのポジションは、平均的なポジションと給与であることが分かりました。いっぽう、「ギバー(みかえりを求めずに与える人)」の特性をもっている人の多くは、他人のために自分の時間や功績を犠牲にしてしまうため、会社におけるポジションが低く、平均給与額も低いという結果が出ています。ただし、最もポジションと給与が高かったのは、実は「ギバー」の人たちでした。平均で見ると「ギバー」のポジションは低いのですが、突き抜ける人材もまた「ギバー」だったのです。「ギバー」に突出してポジションの高い人が多いのは、損得を抜きに利他的に振る舞えば振る舞うほど、評判がどんどん高まり、人間関係も広がって、出世しやすくなるからと考えられます。
いつも頑張っているつもりなのに、どこか空回りしている。毎日に充実感や喜びがない。そんな人は、「楽観主義になること」、「日常の小さな喜びを大切にすること」、「ギバー」の三つを意識すると、人生が好転するのではないかと思います。
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門倉 貴史(かどくら たかし)
エコノミスト、BRICs経済研究所代表
1971年神奈川県生まれ。1995年慶應義塾大学経済学部卒業、同年銀行系シンクタンク入社。1999年日本経済研究センター出向、2000年シンガポールの東南アジア研究所出向。2002年から2005年まで生保系シンクタンク経済調査部主任エコノミストを経て、現在はBRICs経済研究所代表。同研究所の活動とあわせて、フジテレビ「ホンマでっか!?TV」、毎日放送「サタデープラス」、読売テレビ「上沼・高田のクギズケ!」など各種メディアにも出演中。また、雑誌・WEBでの連載や各種の講演も多数行う。『不倫経済学』(KKベストセラーズ)、『門倉貴史のオトナの経済学』(PHP研究所)、『日本の「地下経済」最新白書』(SBクリエイティブ)など著書多数。
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