業界全体に影響が広がる中国恒大集団の経営危機
中国恒大集団はドル建て債の利払いを履行も懸念は解消されず
NRI研究員の時事解説
中国の不動産開発分野を巡り、好悪双方のニュースが入り混じる状況となってきた。経営危機に直面する中国恒大集団が、予想外にドル建て債の利払いを実施する一方、他の不動産開発会社がデフォルト(債務不履行)に陥るなど、中国恒大集団以外の不動産開発会社への波及が目立ってきたのである。中国恒大集団は、流動性危機に直面しているにもかかわらず、10月21日にはドル建て債の8,350万ドル(約95億円)の利払いを行い、債権者らを驚かせた。当局が中国恒大集団に強く働きかけて、利払いを履行させた可能性が考えられる。そのきっかけとなったのは、花様年控股集団(ファンタジア・ホールディングス・グループ)がデフォルトを起こしたことだろう。海外債権者は弁済順位が低くなるとの観測が一層強まったことを受け、そうした懸念を緩和する狙いがあったのではないか。中国規制当局は不動産開発会社に対し、外債も含めすべての債務支払いを履行するよう通達している。また、ブルームバーグによれば、国家発展改革委員会(発改委)と国家外為管理局(SAFE)の当局者は26日に北京で開いた会合で不動産開発各社に対し、可能なら支払いを期日までに行うよう促した。支払いを履行できない不動産開発会社は、その旨を直ちに当局に報告するよう求められたという。中国恒大集団がドル債の利払いを履行したからと言って、この先も相次ぐドル債の償還、利払いを行うことは保証された訳ではない。利払い実施後も中国恒大集団のドル建て債は引き続き額面1ドル当たり20セント近辺で取引されており、デフォルトもしくは大幅なヘアカット(債務元本の減免)の可能性がなお極めて高いとの市場の見方を反映している。
業界全体への波及が進む
ブルームバーグによると、中国当局は中国恒大集団の創業者で富豪の許家印氏に対し、同社の債務返済に個人資産を使うよう指示したという。ブルームバーグの推計では、許氏の資産は約78億ドルである。6月時点で3,000億ドル超に膨らんでいた中国恒大の債務全体に比べればかなり小さい額だ。ロイターによると、許氏はさらに、社債で資金調達した住宅プロジェクトに個人資金の一部を充てることにも同意しているという。当局は、債務返済に個人資産を投じるよう強いることで、許家印氏に対して強い罰を与え、乱脈経営のつけが大きいことを同業他社などにアピールする狙いがあるのだろう。政府による統制強化と中国恒大集団の経営危機を受けて、比較的健全な経営を続けてきた不動産開発会社も苦境に陥っているのが現状だ。代金を支払っても住宅が手に入らないリスクが高まったことで、個人が住宅購入、代金の支払いを急減させている。その結果、住宅販売は大きく減少している。また、代金が得られないリスクが意識され、建設会社も不動産開発会社からの新規受注に慎重になっているはずだ。経営環境が悪化して流動性が低下している不動産開発会社は、流動性確保のための手持ちの住宅を安売りし、また土地を投げ売りしている可能性がある。その結果生じる資産価格の下落は、住宅保有者の資産を目減りさせ、逆資産効果から個人消費にも悪影響が及んでいるはずだ。中国の不動産分野の苦境はまだ始まったばかりであり、今後も不動産開発会社のデフォルト、破綻といった悪いニュースが相次ぐことは避けられないだろう。(参考資料)“The Risks and Rewards of Playing Chicken With China“, Wall Street Journal, October 28, 2021“Kaisa Cut to CCC+ by S&P, Fitch on Refinancing Risks“, Bloomberg, October 28, 2021“China Urges Builders to Pay Debts After Default Hurt Trust“, Bloomberg, October 28, 2021木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト)---この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。