浦沢直樹「どこの国にも抜かれない」日本マンガ文化が最強である理由

NHK Eテレ「浦沢直樹の漫勉neo」(C)NHK

浦沢直樹「どこの国にも抜かれない」日本マンガ文化が最強である理由

NHK Eテレ「浦沢直樹の漫勉neo」の新シリーズが3月から放送されることになり、漫画家浦沢直樹氏(62)がこのほど取材に応じた。世界のエンタメ勢力図がめまぐるしく変わる中、常に日本の牙城であり続けているマンガ文化。「どこの国にも抜かれない」という自負と、強さの背景を聞いた。◇◇◇-14年の放送開始以来、約30人の漫画家の創作現場を見てきましたが、振り返って感じることは。浦沢 マンガを書くって、すごい楽しいということ。おもしろいストーリーを思いついて、絵を描くテクニックがあったら、マンガってその日のうちに始められる。映画だと、スポンサーを募るところから1年以上の下準備が必要になりますが、マンガは妄想の力と書く力があればその日からできる。僕を含めて、みんなその楽しさに取り憑かれた人たちなんですね。-映画、ドラマ、音楽などのジャンルで韓国などのエンタメが世界を席巻する中、マンガのジャンルはずっと日本が世界最強の印象。どこの国にも抜かれていませんよね。浦沢 僕もそう思います。-その理由は何だとお考えですか。浦沢 おそらく、お金がかからないんですよ。子どもたちが妄想して書く世界が大きくなったものなので、巨大なプロダクションが動いていない自主独立な文化なんです。太平洋戦争が終わって何もなくなっちゃったところから、手塚治虫先生たちが紙とペンだけで、まったくお金をかけずにエンターテインメントを表現した。最初があまりに大きいビッグバンだったので、60年くらいたってもその文法を受け継いでいるのかなって。-よその国々も力をつけてきていますが。浦沢 感情表現の使い方をというのは日本のマンガは傑出していると思う。ちばてつや先生の役割はすごくて、ふっと目を伏せるシーンとか、行間の感情をスーッと作り上げていくあの感じは、案外ほかの国にはない。手塚治虫先生の大きな世界観の力と、ちば先生のひとコマの感情表現。この両輪が僕らを育てたんだろうなという気がします。-そんなマンガ文化の歴史の中で、今はどんな時代なのでしょうか。浦沢 デジタルですね。相当漫画界を変えてきています。(画材の)スクリーントーンがなくなったら引退するというアナログ派もいれば、紙に書いたことがないという人もいる。タブレットでは絵が納まりきらないので、読む道具をどうするかという過渡期でもある。坂本眞一さんの作画風景なんか、映画館で見るクオリティーのものをデジタルで書いている。漫画を映画館で観賞する時代が来るかもしれないとか、とんでもない可能性が秘められていると思います。-今まで番組に登場した漫画家さんの中で衝撃を受けた人は。浦沢 書き方って本当に人それぞれで、萩尾望都さんのペンの持ち方っておかしいんですよ。先っちょを持ちすぎて、ネコが爪でひっかきながら書いているように見える。あれはおもしろかったですね。藤田和日郎さんのホワイトの使い方も、4回5回6回とあんなに塗ったら経年劣化にもたない。何度も何度も消すというのはデジタルのやり方で、それをアナログでやっているおかしさが作風に出ているんです。-ご自身の作風にも影響はありますか。浦沢 「漫勉」のおかげで、目を書くのが丁寧になったかもしれない。少女漫画系の方が「瞳が命」って感じで書かれていて、大事にしなきゃいけないと思いました。ちばてつや先生が手の下に敷くペーパータオルは、すごくいいです、あれ(笑い)。-今回のシリーズでは、「弱虫ペダル」の渡辺航さん、「ケルン市警オド」の青池保子さん、「パンゲアね」の新井英樹さんの3人が登場します。浦沢 同じ職種とは思えないくらい、マンガというジャンルがいかに多岐にわたっているかがよく分かります。ペンスピードも、渡辺さんは「漫勉」史上最速。新井さんは最も遅いかもしれない。青池先生はキャリア50年以上のレジェンドであり、新井さんは20年ほど引きこもっていたとか。それぞれの生活の中からああいう作品がにじみ出てくるんだなとよく分かると思う。-番組を通して、マンガに対する考え方は変わりましたか。浦沢 1人で書いていると、僕1人だけが大変な思いをしていると思ってしまいますが、たくさんの先生にお会いして、みんな大変なんだと励みになります。みんなすごいなあ、って。◆NHK Eテレ「漫勉neo」放送予定3月2日…渡辺航/「弱虫ペダル」3月9日…青池保子/「ケルン市警オド」3月16日…新井英樹/「パンゲアね」◆浦沢直樹(うらさわ・なおき)漫画家。主なヒット作に「YAWARA!」「MONSTER」「20世紀少年」「あさドラ!」など。手塚治虫文化賞やメディア芸術祭マンガ部門優秀賞など受賞歴多数。【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)

最終更新:日刊スポーツ

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