『零 ~濡鴉ノ巫女~』対談。『呪怨』の清水監督とともにホラーを語る。柴田Dの心霊体験から数多くのシステムが誕生!?

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清水 崇(しみず

映画監督。ブースタープロジェクト所属。代表作に『呪怨』シリーズ、来年公開の新作『牛首村』も控える『村』シリーズなど(文中は清水)。

菊地啓介(きくち

コーエーテクモゲームス所属。『零』シリーズのプロデューサーを務める(文中は菊地)。

柴田 誠(しばた

コーエーテクモゲームス所属。『零』シリーズのディレクターを務める(文中は柴田)。

『零 ~濡鴉ノ巫女~』とは?

――対談前に、清水さんにPVを閲覧していただきました。『零 ~濡鴉ノ巫女~』の印象はいかがでしょうか。

清水僕はゲームには疎いですが、ホラーゲームって“脅かせる”のがメインみたいな印象があって、“ゾクゾクする”みたいなところを目指すタイトルがあるのはうれしくなりますね。僕も拙作では、なるべく“サプライズ”より“スケアリー”を狙っているので。また、実写映画もそうなのですが、アクションの方向性を強めると、もともと狙っていた怖さから外れがちです。たとえば銃で敵を撃つ、肉弾戦で相手を倒すような、直接的な攻撃手段を描くと、日本やアジア特有の怪談的な怖さから外れてしまうんです。それはゲームでも同じだと思います。

菊地ありがとうございます。『零 ~zero~』シリーズは、2001年に発売された『零 zero』からスタートしているのですが、そのときから柴田が世界観やストーリーを制作しています。最初に僕が柴田から言われたのは「カメラを使って除霊するんです」というアイディアで、思わず「何それ!?」って驚いたのを覚えています。たとえばお札を貼る、破魔矢を撃つなど、具体的な攻撃じゃないと、除霊してる感じが出ないと思ったんですね。

清水怖いものって、目を逸らしたくなるじゃないですか。しっかりとカメラを構えて、それと対峙しなくてはならない、というのは怖いのが苦手な人にはなんとも怖いことでしょう。柴田さんはなぜ、カメラで除霊するというシステムを考えたのでしょうか。

柴田ゲーム的に言ってしまうと、銃の射撃とさほど変わらないんですけどね。ただ、霊の瞬間を切り取る、というところの“ショット”が、幽霊との戦いにマッチすると思ったんです。

清水ああ、そういうのありますよね。子どもとかって、「幽霊が怖い」ってなると、まあ布団を被って怖さを抑えますよね。でも、幽霊だと別に布団の中だろうと関係ないのかな?っていう(笑)。じつは、そんな幼少期の妄想が『呪怨』のワンシーンにつながったりしてるわけですが。

柴田先ほどアクション性を高めると怖くなくなってしまう、というのは清水さんのおっしゃる通りで、ゲーム的にもバンバン除霊できたり、カンタンに逃げられたりすると、怖くないんです。なので、すべてのアクションが怖さを保つギリギリの速度になるように調整しています。プレイヤーとしてはちょっとゆっくりとしたアクションに感じるとは思いますが、主人公たちは女の子がメインですし、ゲーム全体の雰囲気も保てているのかなと。

――『零 ~濡鴉ノ巫女~』はリマスタータイトルとなりますが、リマスターについてどのような点を心掛けていたのでしょうか。

菊地今回のリマスターはグラフィックを美麗にしているだけでなく、衣装や新モードなど、追加要素はありますが、まずは多くのプレイヤーに『零』シリーズに触れていただきたい、というところからストーリーやバトルの基本の要素は変えないリマスターにしています。

柴田もう一度見ると、やはりどうしてもストーリーやゲームシステム、演出に手を加えたくはなるのですが、そこをやってしまうと全部作り直したくなってしまうので、我慢しました(苦笑)。

菊地20周年記念作品なのに、そうなると25周年のときに発売とかになってしまうので、そこはこらえてもらいました。

清水そうなるともう、シリーズ6作目になってしまいますね(笑)。追加衣装に、水着があるのがいいですね。映画だったら水着の女の子出てきたら「これはプロデューサーか監督の趣味で出てるだけだろ!」とか「妙なサービス的選択で怖い雰囲気台なしに…」なんて違和感しか生み出しませんが、ゲームだったらプレイヤーの自由ですし。

――(笑)。『零 ~濡鴉ノ巫女~』は水の恐怖をフィーチャーしたタイトルですが、なぜそこに着目されたのでしょうか。

菊地1作目から柴田はずっと言っていたのですが、和風ホラーは“湿り気”が重要だと思うんです。

清水ええ、湿度は重要ですね。日本や韓国などのアジア圏って湿度の高い国じゃないですか。そこに憧れるリドリー・スコットなんてハリウッドの映画監督もいたりしますが……。そういう環境で生まれ育ってきたからこそ、DNAに空気感が浸み込んでると思うんです。

菊地たしかに。海外の建物や場所って、どこか乾いている印象があって、和風ホラーは日本家屋を彷彿とさせるような、どこか湿度の感じるシチュエーションだと思うんです。ですから、初代『零 ~zero~』から水の要素は重要視していました。ただ、当時は技術的なハードルが高かったんです。2014年発売の『零 ~濡鴉ノ巫女~』から、それがようやく実現できそうだと思い、チャレンジすることができました。

柴田雨に濡れたら女の子の髪も濡れるし、衣服も透けるという見た目にセクシーな要素でもあるのですが、濡れれば濡れるほどに死の世界に近づいていく、というホラー要素にもつながっているんです。幽霊に触れたときのダメージも大きいですが与えるダメージも大きい。ゲーム的にも、危険な要素でもあるわけです。

清水なるほど。PVではいろいろなホラースポットが登場していましたが、なにかモチーフはあるんでしょうか?

菊地ええ、あります。本作は日本全国のホラースポットをひとつの山に集めよう、というテーマがありまして。

清水それは便利なロケ地ですね。現実でもほしいなあ。

菊地(笑)。ただ、それをそのまま実現すると、スポットそれぞれがバラバラの印象になってしまうので、なにかひとつ、まとめ役が必要でした。そこで、日上山に降る雨や流れる川といった水を用いることで、一貫性のある舞台を作り上げることも、水の役割のひとつでした。

柴田昔海外から帰ったときに、日本の湿度の高さに気づきました。同時に、日本は水分や湿度で、全体がつながっているし、死の世界や幽霊ともつながっている感覚があったんです。つまり、もっと湿度が上がれば、より幽霊とつながっている世界設定にできるんじゃないかと考えて、水でつながった舞台設定を考えたんです。川があり、滝があり、その源流となる水は何なのか?

清水いいですね。水は目に見えるものですし、飲まないと死んでしまうし、体内にもすでに存在していて、植物も動物も全部水でつながっています。生きている限り排除できないものだから“通じてしまう”という怖さがあります。

和風ホラーの怖さとは?

――映画とゲームと分野は違いますが、お客さんを怖がらせる点では、同じエンターテインメントのひとつだと思います。具体的にどのような点を意識して、ホラー要素を高めているのでしょうか?

清水僕は雰囲気と気配です。まず雰囲気についてですが、廃墟、学校、病院、いろいろな心霊スポットがあります。使われなくなって人が寄り付かなくなった場所って、何も事故や現象が起きていないのに、尾ひれが付いて勝手に心霊スポットになるんですよね。地球規模で見たら、確実に人害です。勝手に作って放置した挙句、勝手に怖がるっていう風に、その場所を心霊スポットにしてしまう周囲の人間の心理があると思うんですね。そういった話が立つことで、何かが宿っていくんだろうと思います。そこを大事にしています。

柴田映画はひとつの空間をじっくり映し出せるのですが、ゲームはプレイヤーの操作で戻ったり進んだりできるので、ひとつの空間を魅せるという意味では、ゲームのほうがやりやすいのかもしれません。『零』シリーズは怖さがありつつも、プレイしていくうちに居心地がよくなってくるんです。なんだか懐かしい場所だなぁ……と感じたりして。

菊地それは、柴田の幼少の体験がゲームに反映されてるからじゃないかな(笑)。

柴田ああ、たしかに(笑)。僕、幼少期にはよく心霊現象を体験していたのですが、あるときからなくなって、ホラーゲームを作るようになってからまた体験するようになったんです。だから、居心地のよさを感じてしまうのかも。

――では、和風ホラーというのは、たとえば突然ゾンビが飛び出してきたりと、ビックリさせるような演出をふんだんに盛り込むのではなく、清水監督の言うようなジト~ッとした雰囲気で魅せるようなスタイルが、人気の秘訣かと思います。和風ホラーを演出していく、そのコツはありますか?

『零 ~濡鴉ノ巫女~』対談。『呪怨』の清水監督とともにホラーを語る。柴田Dの心霊体験から数多くのシステムが誕生!?

清水いやぁ~、コツがつかめたらなぁっていつも思っています(苦笑)。たまに、意図していた方向性とは違う雰囲気になる、魔の空気感っていうのがあるんです。意識を越えたところで、何かが宿ってしまうような。たとえば、故トビー・フーパー監督の『悪魔のいけにえ』を、もし監督本人がもう1度撮っても、2度とあの映画にはならないでしょう。それは、再度同じ状況でも、当時とは違う潤沢な予算や時間があっても、です。そういった、魔の空気感のようなものを、瞬間的にでもいいので、いつかつかまえることができたらいいなと思っています。

柴田本作にも、もちろん驚かせポイントみたいのがあります。なるべく我慢したほうが効果的なんですが、いまプレイすると「ああ、当時の自分はここで我慢できなかったんだな」と、ちょっと後悔するところもありますね。きっと当時、誰かに「ここに驚かせる演出を入れてほしい」と言われて実装したんだな、と。

清水まあでも自分の10代のころを思い返すと、分かりやすいサプライズ演出でも驚いたし楽しめていたので、大事なことだったんだと思います。その中でも僕が好んだのが、「ギャー!」より「ゾッ……!」だったんですよね。

菊地『零』シリーズを最初に作り始めたとき、人が感じることでなにがいちばん怖いのかと柴田に聞くと「人の想像力がいちばん怖い」と答えました。何かを感じたあとに、ふと想像力を働かせて倍増したものが、いちばん怖いんですよね。そこを意識してゲームに取り入れているので、ゲームを遊び終わったあとも、何かふとしたところで怖がってもらえるような演出などを採用しています。

清水ちなみに、そこのさじ加減って、本当に日本人独特と言いますか。アジア圏の人たちには結構伝わりやすいバランスなのですが、欧米人にはかなり理解してもらうのが難しくて。ハリウッドリメイク版の『THE JUON/呪怨』を作ったときは、毎日のようにプロデューサーとケンカしてましたよ。「ぼんやり立ってるだけなんて、何が怖いんだ」とか言われたりするのですが、こっちはこっちで「悪魔を出すようにしろ」とか言われても、怖くないわけで(笑)。それこそ環境や文化、宗教感の違いなどもありますが、互いに「考えるな!

やはりある、リアル心霊体験……!?

――ホラーものの現場では、よく心霊現象が起きる……なんてエピソードを聞いたりします。実際にお三方が、体験したことはあるのでしょうか。

菊地僕は霊感がないのでないんですが、柴田はよくあります。

柴田幽霊に触られたことがあって、自慢していますね。

清水それはすごい!

菊地もともと『零』シリーズって、柴田の心霊体験をゲーム化したみたいな側面があるんです。よく心霊モノを扱うタイトルはお祓いに行きますよね。でも、柴田の心霊体験がもとになってるから、柴田はお祓いに行かないんです。開発チームからは不安なので「お祓いに行かせてください」って言われて(笑)。

柴田もし幽霊が出なくなったら、もったいないですからね!

菊地3作目の『零 ~刺青ノ聲~』までは、本当にお祓いに行ってません(苦笑)。こっそり連れていこうとしたときには、柴田に怒られましたね。ただ、『零 ~月蝕の仮面~』からは、ほかの開発会社さんなども関わるようになったので、それにかこつけて、一部スタッフとお祓いに行ったりしました。

清水そうそう、お祓いなんてやっちゃいけませんよ!

菊地安全祈願としてお祓いをしていたのですが、1回だけ柴田に「僕の代わりにお祓いの予約しといてくれ」と頼んだら、柴田が商売繁盛祈願に変更してて(笑)。

柴田安全より商売繁盛の方が重要でしょう。そしてヒットするためには、本物の力が必要ですから!

――本物の力、ですか(笑)。柴田さんは具体的に、どのような体験をされたのでしょうか。

柴田いろいろありますが、いちばん思い出深いのは幽霊がゲームに出てきたことです。たとえば収録音声に、幽霊の声が入ったりして。でも音なら、なんとなく分かるんですよ。機材トラブルかもしれないですし。ただ、ゲーム内のグラフィックとして心霊現象が起きたことがあって。

――実現していたら、まさに伝説級のホラーゲームですね……!

柴田実際にゲームデータに採用されたものもありますよ。『零 ~紅い蝶~』では霊石ラジオという、幽霊の声が聞こえるラジオがありました。その音声収録では、声優さんのボイスを実際に電波で飛ばして、鉱石ラジオで拾って録音したものを使用しています。声優さんの演技や、ラジオを挟んだフィルターもあり、かなりいい感じに仕上がりました。ただ、何やら苦しむ声がサウンドに入っているんですよ。

菊地サウンドスタッフからしてみればたまったものではなくて、本当に困り果てていたんですよ。削除しても、そのサウンドがつぎの日になったらまた復活してるんですから。

清水ホラーの現場としては、いい風が吹いてますね!

柴田なにより、出演料がいらないですからね!

――ものすごい出演者ですね(笑)。

柴田あと、制作中にセリフを言われたことがあります。幽霊のセリフっておもしろくて。自分でセリフを考えるとなると、ちゃんと説明したり、何かを解説しておかないといけません。でも、幽霊のセリフは計算がないんですよ。

清水それはいいセリフですね!

柴田そうなんですよ。あと、笑ってしまうようなことを言われたこともあります。いまはないですが、昔のゲーム開発では会社に泊りがけで作業することが多かったんですね。そのとき、会議室のようなところで横になって寝るわけですが、その会議室には本がたくさん積んでありました。

――なぜ確認したんでしょうかね……。清水監督は、そういった体験はありますか?

清水僕自身は霊感がないのか、直接はないんです。ただ、ちょっと不思議だなとか、偶然にしてはおかしいな、みたいなことはちょっとだけ体験したことがあります。昔、富士急ハイランドの“戦慄迷宮”というアトラクションをお借りして、映画を撮影していたときの話です。

柴田きっと出たがりが居たんですよ。無料のエキストラなんて、美味しいじゃないですか。

一同

柴田ほかにもありまして、ちょっと長い話になります。恐山がモチーフのゲームなので、取材で恐山に行ったときの話です。朝イチで青森から出発し、バスに乗りました。恐山って、バスで向かうのですが、基本的に恐山に行く人しか乗っていません。女の子と体の大きな男3人の外国人バックパッカーの集団、若いカップル、おばちゃん2人連れと私というメンバーでした。

――おじさんのクッキーが、というところで笑い話にも見えますね(笑)。その神社というのは、実在するんですか?

柴田その神社は、とても綺麗で周囲に音もないくらい静かで。雰囲気がいいからゲームにもこういう場所が出せればと思ったんですよ。あとからGoogle Mapで探したんですが、その順路から離れたところを見ても、その神社がないんです。だから、まだ見つけられていない、または存在しない……のかもしれません。

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