DXとは「終わりなき旅」である | Ledge.ai

AI関連メディア「Ledge.ai」を運営するレッジは、さまざまな企業や業界からAIのスペシャリストを招き、「各業界の課題や最新事例」を「AIをはじめとするテクノロジー」の観点から、パネルディスカッション形式で語り合うウェブセミナー「Ledge.ai Webinar」を定期的に開催している。

10月26日(火)には、「データ活用を『アイデア』から『実行』に進める方法」というテーマで、株式会社データダイレクト・ネットワークス・ジャパン(以下DDN)代表取締役のロベルト・トリンドル氏、エヌビディア合同会社(以下NVIDIA)のエンタープライズ事業本部 事業本部長であり日本ディープラーニング協会の理事も務める井﨑武士氏を招いてウェビナーを実施した。

ファックスの廃止や、COVID-19の感染拡大によるリモート会議の活用など、多くの企業でデジタル化が浸透しつつある。しかし、ビジネスの変革という意味でDXが進められるケースは未だ多くない。そもそも、どのように具体性を持って進めれば良いのか分からず、プロジェクトが踏み出せないケースもある。本ウェビナーでは、ビジネスとテクノロジーの融合について、事例やトレンドを中心に企業が本当の意味でDXを推進するためのヒントについてパネルディスカッションを行った。本記事ではその様子をイベントレポートでお届けする。

登壇者

1968年オーストリアのインスブルック市生まれ。1992年インスブルック大学で数学と音楽の修士号を取得。その後、東京大学先端科学技術研究センター、パリ国立高等鉱業学校などに留学。三菱生命科学研究所を経て、1998年からコンサルタントとして独立。2008年データダイレクト・ネットワークス (DDN)に入社後、2016年9月よりグローバル市場担当シニア・バイス・プレジデントとして、DDNセールス、マーケティング、プロダクトマネジメント、フィールドサービス、サポートの全機能をグローバルに統括している。DDN日本法人代表取締役も兼務。

1997年東京大学工学部材料学科卒業後、1999年東京大学大学院工学系研究科金属工学専攻修了。1999年日本テキサス・インスツルメンツ株式会社に入社。DVDアプリケーションプロセッサ、携帯電話用カメラ映像、画像信号処理プロセッサ、DSPアプリケーションの開発を経て、デジタル製品マーケティング部を統括。エンターテイメント製品からインダストリアル製品にいたる幅広い領域のビジネス開発に従事。2015年エヌビディアに入社し、深層学習(ディープラーニング) のビジネス開発責任者を経て、現在エンタープライズ事業本部を統括。

前職は出版社においてIT・デジタル系のウェブメディアと週刊誌の編集者として活動。また、有料会員制メディアの立ち上げからグロースにも携わる。2019年11月にレッジに参画。2020年7月からLedge.aiの編集長に就任。記事執筆以外にも、セミナーやPodcast等さまざまな媒体での出演経験を持つ。無類のアイスコーヒー好き。

AIへの投資対効果は浸透してきたが……

AI、DX、データ活用などの言葉が浸透してしばらく経つ。この2、3年でAI、DX、データ活用への考え方はどう変遷してきたのか。

NVIDIAの井﨑氏は、AI(のなかでもディープラーニングに限って言えば)認知度が向上し、興味深い事例も増えてきたと話す。

――井﨑「ディープラーニングの話になりますが、弊社では2015年からディープラーニングを始めました。が、当時は飛び込み営業をしてもけっこう断られていましたね(笑)その後、メディアの報道でディープラーニングの認知度は大きく上がりました。普及が遅れているといっても、なかにはおもしろい事例も増えてきています。

そのひとつが武蔵精密工業さんですね。車のギアを作っている会社なんですが、不具合が1ミリでもあると大問題で、小さな欠陥箇所を特定するために目視検査をしていた。この検査をAI化した事例で、こうした異常検知の領域ではディープラーニングが使われている事例が増えてきています」

DDNのトリンドル氏は、自身の経験から、AIへの投資対効果を定義することができるようになったのは今年に入ってからという印象、と語る。

――トリンドル「2017年〜2018年はシリコンバレーに住んでいて、いろいろな会社に訪問していました。当時からシリコンバレーではより大きいデータを扱うためにワークステーションからストレージにできないか、というような相談が来ていました。その後日本に帰国して感じたのは、日本では企業がまだワークステーションのレベルでAIなどの技術を試されている印象です。AIはデータを集めないといけないので、システムよりも場合によってはコストがかかりますから。そのようなAIへの投資対効果を定義することができるようになったのは今年に入ってから、という印象ですね」

DXとは「終わりなき旅」である | Ledge.ai

日本でDXが進まない2つの理由

そもそも、日本でDXは進んでいないのか。進んでいないとすれば、理由は何か?セミナーでは2社の考えが語られた。

井﨑氏は、「日本ではDXは進んでいない」とし、2つの理由を指摘した。

――井﨑「実際進みは遅いんですよね(笑)いくつか要因があります。ひとつは経営者のリテラシーの低さで、技術に対するリテラシーが低いがゆえに変革にコミットできない。もうひとつは、人材の問題です。DXはある意味新規事業に近しい。複数部門にまたがるデータ連携を行い、新たな価値創造をもたらすビジネスモデルやプロセスを生み出すという話になってきます。つまりイノベーションをおこせるタイプのリーダーが必要です。、これまでのやりかたで成功体験を持っている人では既存の枠組みを変えたくないので抵抗勢力となる場合があります。うまくいっている企業の経営者は大抵の場合、この抵抗勢力をどのように黙らせるかをきちんと考えています。たとえば既存のビジネスで成功している人ではない人をアサインする、外部から優秀な人を採用するなどですね。

結局のところ、DXは既存のビジネスを壊すところもあるので、まったく新しい体制が必要になってきます。現場のエンジニアに関しても、外部からの人材採用は、かなり難しいので、まずは社内で見つけることをおすすめします。大企業ですとさまざまな人材がいるので、たとえばある企業では実際に休日に趣味でPythonをいじっている人を発掘されていたりして、そういった人材に自由な環境と裁量を与えることが重要です」

日本と海外のDX、差はエンジニアリソースの内製化?

一方トリンドル氏は、日本のDXはヨーロッパと比較すると進んでいるとする考えだ。

――トリンドル「故郷のオーストリアを考えると、日本はDXが進んでいないとは言えません(笑)それなりにIT企業があって、マーケットも大きく、エンジニアも多い。ヨーロッパとのちがいは、やはり日本は中小企業が多く活発なところだと思います。日本で概して予想できないようなことをやるのはたいてい中小企業です。ヨーロッパだと新しいことをやるのはなんとなく大手企業ばかりになってしまうので、日本は大企業だけではなく中小企業への期待感が大きいですね」

セミナーでは日米のDXの差異にもフォーカスして議論が行われた。

――井﨑「たとえばウォルマートでは1000人以上のエンジニアを内部で抱え、需要予測などを行っていますが、日本では多くの場合エンジニアリソースを外部ベンダーに依存しています。その状況ですべてを内製化するのは現実的ではないので、まずは外部ベンダーとの開発がワークするスキームを作る必要がある。同時にそれを理解する社内人材を育てることも重要です」――トリンドル「企業組織にとっての課題は日本、海外問わず共通していると思いますが、企業文化のちがいはやはり大きいと思います。たとえばアメリカだと経営者がDXをやると決めたらどんどん進む。ヨーロッパはどちらかというと日本に近いかな……。

DXの中でもAIに関して言えば、AIは単にアプリを導入するものではなく、研究に近いところがある。少しずつ試しながらできたモデルを評価して進める必要があります。なので企業と大学の連携も重要になってきますね。アメリカで顕著なのが、初期のAIプロジェクトでは大学の部門ごと採用してしまう。Uberがカーネギーメロン大のロボティクス部門をまるごと採用して自動運転部門を立ち上げた例もあり、大学と企業のいい関係があると思います」

どんなに優秀な経営者・エンジニアがいても、DXは時間がかかる

DXという言葉が流行して久しいが、同時に定義があいまいなまま使われがちでもある。最終的に、何をすればDXと言えるのか?

井﨑氏は、DXは「終わりなき旅」だと指摘する。

――井﨑「一口にDXと言いますが、DXの手前には、たとえばはんこを電子署名にするなど、アナログからデジタルへの移行であるデジタイゼーションがあり、その後にデジタルを用いて付加価値を生み出すデジタライゼーションがあります。DXとはその価値創造を永続して回すようにすることであり、組織を作り、カルチャーを作り、継続する必要があります。文化を作るのって終わりがありませんよね。なのでDXは『終わりのない旅』だと思っています」

トリンドル氏も、DXは文化の変革であり、時間がかかるものと口をそろえた。

――トリンドル「井﨑さんが仰るとおりで、DXはひとつのプロジェクトではないので、終わりのない旅というのは正しい表現だと思います。そのうえでDDNでは、DXをIT、コンピューターサイエンス、数値計算などを複合したものだと見ています。

たとえば30年前から車の安全性を測るための衝突実験をコンピューターの中でシミュレーションできるようにしようとする研究は、当時は無駄な投資と言われていました。しかし、現在ではコンピューターの中でシミュレーションできる=データを持つということにほかならず、かつデータ同士が密接につながってきています。

DXとはこれらのデータを扱うという意味で、10年以上前から始まっています。今はデータ同士つながっていなくとも、10年20年経てばつながってくる。そういった意味で、DXは文化だというのは正しいと思います」

セミナーでは視聴者から以下のような質問もあった。

Q. DX進める上で最終的に必要なのは経営陣の覚悟だと思いますが、一方で現場はアイデアがあっても日々の業務に忙殺されてDXを考える暇もありません。こういった場合誰がなにから始めればよいでしょうか?――井﨑 「切実な思いを感じるご質問ですね。仰るとおり、投資をきちんと行えるのが経営者ですので、現場が業務に忙殺されてるのであれば経営者がリソースを割いて改善するのだ、と決断する必要があります。現場だけでは無理なので、経営者は覚悟を持たなければいけない。

一方で現場は、時間のないなかでもディープラーニングなどの技術を勉強しておき、会社にDXの波が来たときに抜擢されるために、社内での技術的なプレゼンスを上げておくべきです」

――トリンドル「変革には文化が重要だと思います。弊社のようなIT企業でも同じですが、顧客のITをサポートするという仕事においても、データを捨てるか活用するのかの判断には、軸となる文化が大事です。どうしても長期的な投資が必要になるので。DXはたとえどんなに優秀なエンジニアがいたとしても、企業文化に関わる変革なので時間がかかります。その意味で、井崎さんが仰るDXは旅というのは正しく感じます。経営者だけでなく、会社全体の考え方も大事です」

まずは課題の特定からはじめよ

数々の論点があったセミナーだったが、最終的にDXをこれから始める企業は、まず何からはじめるべきか?2社に共通していたのは「まずは課題の特定」が重要ということだ。

――井﨑「DXと闇雲にいうのではなく、まずは課題を特定することが一番大事です。そのために、会社のなかでも現場を対話を重ねる必要があります。NVIDIAでは支援のため、DXアクセラレーションプログラムという外部の優れたパートナーとマッチングできるプログラムも用意しています。 

一方で、外部と内部で完全に分業してしまうのも、たとえばアプリケーションを作る際の最適化ってハードウェアに依存したりするわけですが、こういうこともアプリケーションしか知らないとわかりませんよね。きちんと情報を理解したうえで、外部に頼むか自社でやるかは判断したほうが良いです。ですがその前に、重ねていいますが課題を特定することからです」

――トリンドル「井﨑さんの仰るとおり、DXが先ではなくビジネス課題が先にあります。ビジネス課題を定義し、DX的な手法があっているかの判断のうえで、弊社としてはエンドユーザーのビジネス課題を解決するためのインフラを提供したいと考えています」◆DDNについてデータダイレクト・ネットワークス (DDN)は、規模や容量、可用性のすべてにおいて非常に厳しい要件が求められるハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)のストレージシステムで、数多くの実績を積み上げてきた企業です。過去20年以上にわたって企業、政府機関、公共部門など1万社以上のお客様への導入実績を誇り、グローバルで10か所のデータセンターを保有しています。さらに近年では、エンタープライズ向けにストレージシステムを提供する企業を相次いで買収、ソフトウェアディファインドストレージ(SDS)のNexenta社のマルチクラウドデータマネージメント機能、IntelliFlash社のエッジコンピューティング機能、Tintri社の仮想基盤ストレージ機能を統合、ストレージシステムのトータルプロバイダーとして、多彩な製品やサポートサービスを提供しています。

そして、DDNの日本法人であり100%子会社として2008年に設立されたのが、株式会社データダイレクト・ネットワークス・ジャパン(DDNジャパン)です。大規模なベンチマークラボを東京に設置しており、数多くのベンチマークテストやPoCを国内外のお客様に提供しています。また、ハードウェアの販売だけでなく、国内におけるサポートを可能とするエンジニアチームを擁しており、過去7年間で1.4エクサバイトに達する非常に大規模なストレージシステムを国内のお客様に提供、そのスピード感もますます加速しています。

◆DDNのAIストレージはNVIDIA SuperPODで大規模検証済み、数々の先進的なAIプラットフォームで導入を加速DDNのAIストレージは、NVIDIA SuperPODで検証されており、NVIDIAのAIスーパーコンピューター「Selene」のストレージとして採用されています。Seleneは2021年6月のTop500のリストでNo.6にランキングされる非常に高性能なAIスーパーコンピューターですが、40台 DDN AI400X アプライアンスを採用することで、最大2TB/secのスループットと1.2億 IOPSという非常に高い性能を示しています。なお、SuperPOD上で行われたDDNストレージとの大規模検証の結果は、NVIDIAおよびDDNからリファレンスアーキテクチャ、もしくはブループリントとして提供されています。

資料ダウンロード:https://ddn.co.jp/ddn_channel/resource-library.html

◆GTCのご案内【11月8日(月)~11日(木)開催】〈新しい世界へ飛び出そう!!NVIDIA主催オンラインイベント〉2021年春、世界中から20万人以上の参加者を集めたテクノロジーカンファレンスの最高峰、『GTC (GPU Technology Conference) 』。さらにエキサイティングなコンテンツが加わり、11月に再開催が決まりました。

 11月8日(月)〜11日(木)の4日間、AIやディープラーニングに関する最新情報や、各国での成功事例など、数々のセッションや技術トレーニングが繰り広げられます。 NVIDIA のエキスパートたちをはじめ、世界で活躍する研究者や、DX(デジタルトランスフォーメーション)を牽引する日本のビジネスリーダーらによる 500 以上のセッション、トレーニングワークショップなど、インスピレーションと魅力にあふれるコンテンツに加えて、交流の場も用意しています。ぜひご参加ください。

◆参加費無料|事前登録制URL: https://nvda.ws/3AclkaP

11 月 9 日 (火) 17:00 (日本時間) は、 NVIDIA 創業者/CEO 、Jensen Huang の基調講演です。世界が直面する難題をテクノロジーの発展により解決していく、驚きの新提案が盛りだくさんです。11 月 10 日 (水) 11:00 (日本時間) には、本対談にご登場いただいた武蔵精密工業の大塚社長と、NVIDIAの井﨑による、日本語での注目セッションもございます。(セッション ID: A31613)DXに成功する企業とそうでない企業との違いを探るべく、大塚社長へのインタビューを通じて、DX 成功企業の「組織像」「経営者像」に迫ります。

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