野党躍進のカギ、「国対政治」を見直せるか?「批判ばかり」の脱却策として隔週・夜に党首討論の開催を
対話なき政治の終わり
いよいよ、日本の政治も大きく変わるかもしれない、そんな印象を衆院選以来抱いている。
それは、衆院選の結果から、有権者が求める政治家像の変化が見てとれるからである。
一つは、「世代交代」、もう一つが、「問題解決力(政策実現力)」だ。
従来は、「憲法改正」阻止、テレビ中継の入った国会(予算委員会)で一方的に与党政府を糾弾するなど、野党から積極的に法案修正を狙うよりも、与党政府に抵抗する姿が「野党像」の多くを占め、野党支持者からもそう期待されていた部分があった。
しかし、今回はそうした動きの中心にいた議員の多くが落選しており、従来型の政治家を求めていたオールドリベラル(主に60代以上)が後退し、代わりに新しい政治リテラシーを持った世代が増えていくなど、今後さらに変化が加速する可能性が高い。
関連記事:今後若者の投票率は右肩上がりになるのではないかという希望と懸念(室橋祐貴)
さらに、今回の10万円給付への世論の反応を見ても、ポピュリズムに流れず、冷静に効果や意義を見極めている印象を受ける。
一方、そうした国民の変化に、国会は対応できていない。
民間シンクタンク「言論NPO」の「日本の政治・民主主義に関する世論調査」によると、日本の民主主義を機能させるために必要な改革として、「議会/国会の活性化」が41.5%ともっとも多くなり、国会が「言論の府」として機能しているかという質問に対して、「思う」という人は9%で1割に満たないなど、国会に対する信頼の低さが浮き彫りになっている。
また、日本財団が17〜19歳を対象に行なった調査では、国会が国民生活に役に立っているかの問いに、3割が「役に立っていない」とし、半数近くは「わからない」と答えている。
国会の議論に関しても、過半数が「知っている」、「多少は知っている」としているものの、54.8%は「有意義な政策議論の場になっていると思わない」と答え、その理由として「議論がかみ合っていない」、「政策以外のやり取りが多すぎる」、「同じ質問が繰り返される」などの点が指摘されている。
日本のガラパゴス国会
なぜ日本の国会は、「有意義な政策議論の場」になっていないのか。
それは、政治家の資質以上に、国会の構造の問題が大きい。
日本の政策立案・決定過程では、与党内で「事前審査制」と「党議拘束」が行われており、国会に提出した時点(閣議決定時点)で、基本的には内容が確定しているため、国会審議で法案修正が行われることもなく、野党として功績を上げる余地がほとんどない。
その結果、法案を廃案に追い込むための、「日程闘争」を行わざるを得ず、与党も審議拒否されないように、野党に配慮しているのが現状だ。
そして、どういう日程でどの法案を通すか、というのも、与野党第一党の国会対策委員長が「密室」で決めており(「国対政治」)、国会内での議論が法案に大きな影響を与えることは少ない。
事前審査とは:内閣が提出する法案は与党内の部会で事前に審査され、総務会で決議される。
党議拘束とは:党の決定に従い、法案決議の際に自分の意思で自由に投票することを拘束される。結果的に議席の過半数を与党が占めている場合には法案の修正が起こることは少なくなる。
会期不継続の原則とは:国会の会期が終わると採決の終わっていない法案は廃案となり、また一から審議となる。
国対政治とは:与野党の国会対策委員長同士が本来の議論の場である国会の本会議や委員会(理事会を含む)をさしおいて、円滑な国会運営を図る為に話し合いを行って国会運営の実権を握っていること。公式の場ではないため、密室で議事録も残っていない。
「国対政治」に対して、国民民主党の菅野志桜里元衆議院議員は、こう指摘している。
単に、野党の役割が、55年体制のような、「憲法改正」阻止、与党政府の監視だけであれば、今の構造のままでも、大きな問題はないかもしれないが、政治家への期待に「問題解決」が入ってきている現状では、支障は大きい。
何より国益に反する上、野党にとっても、法案修正といった政策的な成果を出すことが難しく、「批判ばかり」という批判から逃れることは難しい。
2019年11月20日に、日本若者協議会と国民民主党で行った「国会改革、国家公務員の長時間労働改善」に関する意見交換会にて、国民民主党の古川元久衆議院議員がこう指摘していたが、本来は国会での論戦を通して国民の支持を得ていく姿が望ましい。
「イギリスでは、逐条審査における自由討議が政治家の登竜門になっており、そこで実力が足りない議員は副大臣、大臣に上がれない評価の仕組みになっている」(古川議員)
関連記事:【国会改革】国民民主党が官僚の深夜残業是正に向けた改善策を発表、まずは各党できることから実施を(室橋祐貴)
実質的な議論が行われる国会に
では、日本の国会をどう変えるべきか。
2019年に、筆者が代表理事を務める日本若者協議会では、「国会改革」案(本記事末尾)をまとめ、各党に申し入れしたが、将来的には国対政治の廃止を視野に入れつつ、まずは国会審議の活性化が重要だと思っている。
そのためにすぐできることは、「党議拘束の一部緩和」と、「党首討論の定例化・夜間開催」である。
前者の「党議拘束の一部緩和」について、以前筆者の取材に対し、自民党の牧原秀樹衆議院議員と、細野豪志衆議院議員は、こう答えている。
もう一つが、「党首討論の定例化・夜間開催」だ。
理想はイギリスのように、毎週水曜日の開催だが、まずは隔週に開催できると良いのではないだろうか。
このアイデアも、小泉進次郎衆議院議員や、今回立憲民主党の代表選に出馬することになった泉健太衆議院議員ら超党派の「『平成のうちに』衆議院改革実現会議」が提言をまとめているが、国民に国会の議論を知ってもらうためには、昼間ではなく、夜に行うのが重要である。
定例化すれば、毎回党首ではなく、特定分野の担当者(現大臣、シャドーキャビネットの大臣など)が登壇することもでき、議論の深掘りや、様々な議員を育てることにもつながる。
いずれにせよ、国民から「有意義な政策議論の場になっている」と思われるように、国会で活発な議論が行われるよう、国会改革を進めるべきだ。
それが結果として、日本政治のレベルを引き上げ、野党の信頼向上にもつながっていくだろう。
令和元年11月20日
一般社団法人日本若者協議会
国会改革、国家公務員の長時間労働改善に対する申し入れ
厚生労働省の若手チームが本省職員にアンケートしたところ、20代後半の職員の約半数が「やめたいと思うことがある」と回答し、また「官僚の働き方改革を求める国民の会」の全省庁1,006名の官僚へのアンケート結果によると、平均残業時間は年963時間であった。これは人事院の定める超過勤務命令の上限720時間を大きく上回っており、月80時間の過労死ラインを常に上回っている計算である。このように、国家公務員の「ブラック化」は強まる一方、キャリア官僚志望の学生まで減少傾向にある。
その長時間労働の大きな原因の一つが「国会対応」であり、労働環境の改善、官僚の政策立案機能の強化(回復)、ひいては国民の生活のために、国会改革が求められている。
また、日本財団が17〜19歳を対象に行なった調査では、国会が国民生活に役に立っているかの問いに、3割が「役に立っていない」とし、半数近くは「わからない」と答えている。
国会の議論に関しても、過半数が「知っている」、「多少は知っている」としているものの、54.8%は「有意義な政策議論の場になっていると思わない」と答え、その理由として「議論がかみ合っていない」、「政策以外のやり取りが多すぎる」、「同じ質問が繰り返される」などの点が指摘されている。
これらの背景には、与党の事前審査制、会期制(会期不継続の原則)による「日程闘争」を中心とした、法案審議プロセス、国会審議の形骸化があることは明らかである。
他方、国会議員からも度々「国会改革」が叫ばれており、その課題意識は共有されているものと思われる。
そこで、「言論の府」にふさわしい国会審議活性化、国家公務員の長時間労働改善、さらには若者にとって、政治家や官僚が魅力とやりがいのある職業になるために、以下の点について、各党の取り組みをお願いしたい。
1.質問通告に関するルールの見直し・徹底
1999年9月に、原則として「前々日の正午までに質問の趣旨などを通告する」ことが、与野党の国対委員長間で申し合わせされたが、現状は形骸化しており、実際の通告は質問前日の夕方や夜になることが多く、国家公務員の長時間労働の温床になっており、後述の「審議日程決め」とあわせて、改善が求められる。
・質問通告は2営業日前までに実施すること(期限を過ぎた場合は後日文書による回答とする)
・質問通告の内容・提出時間を事前に公開すること
・質問要旨をFAXではなく、メールなどオンラインで提出すること
・質問通告のフォーマットを変更すること(質問の「要求大臣」だけではなく、「質問内容」も含める)
・質問詳細の問い合わせ(質問取りレク)不可を禁止にすること
2.審議日程の決定方法の見直し
前述の「質問通告2日前ルール」があるものの、実際には委員会の開催が2日前の午後以降に決まることもあり、質問通告の早期化、「日程闘争」からの脱却のためには、審議日程の決め方を変える必要がある。
厚労省職員へのアンケートでは、「何が業務量を増やしているか」という問いに対して、7 割以上の職員が、「厚生労働省で作業量・スケジュールを決められない他律的業務が多い(国会業務、内閣官房・内閣府からの作業依頼など)」と回答しており、国会運営の計画化は極めて重要である。
・国会開会直前もしくは開会後速やかに、(議院運営委員会もしくは各委員長により)本会議・委員会の審議日程、採決の日取りまであらかじめ決めておくこと(少なくとも審議日の1週間前には公表)
・通年国会の導入(会期不継続の原則の見直し)
3.質問主意書のルールの見直し
質問主意書は閣議決定を要するため、業務負担が大きいのに加え、近年は件数が大幅に増えており、手続きの見直しが求められる。
・議員からの質問主意書提出日から内閣への転送日の間を2日程度延長すること
・質問主意書への回答者を、「内閣」ではなく、「内閣総理大臣その他の国務大臣」に変更すること
・同じ質問内容の質問主意書は禁止とする(政府が同質問だと判断した場合は閣議決定不要とする(上記「内閣総理大臣その他の国務大臣に変更」が実現できない場合)、答弁が作成されていない同様の質問は控える、等)
4.国会審議の活性化に向けた改善策
日本の国会では、与党の事前審査制によって、実質的な国会審議が行われておらず、内閣提出法案の修正率は1割にも満たない。結果的に、(法案審議ではなく「日程闘争」に重きが置かれ)国民に政策議論が伝わりにくく、信頼も獲得できていない。そのため、法案修正の活性化や逐条審査、自由討議などを導入することで、より活発な政策議論が行われる場所へと転換すべきである。
また、「参考人招致」や「特別委員会の設置」は行政監視の一環であるにもかかわらず、与党が拒否すると実施されないという矛盾を抱えており、是正すべきである。
・逐条審査の実施
・法案修正の活性化(与党の事前審査制を一部改め、法案審議を国民に開かれた国会中心とする、内閣が議案を修正できるように国会法59条の改正)
・予備的調査の活用・拡充(「野党合同ヒアリング」ではなく、国会の予備的調査の活用を原則とする)
・少数者調査権の導入(与党=多数会派が反対しても、参考人招致や特別委員会の設置を可能にする)
・党議拘束の一部緩和
・国会議員間の自由討議の活性化(法案審議がない時は自由討議とする)
・党首討論の定例化・夜間開催
・国会会議録に加え、委員会配布資料の公開や、委員会審査等に関する報告書の作成
5.その他
・明らかに効率の悪い、国会答弁資料の印刷・資料組み・資料持込みを不要にするために、本会議・委員会でのパソコンやタブレット等の使用(ペーパーレス化)の義務化を求める。
・国会対応に要する移動等の負担軽減のため、オンライン議員レクの積極的活用を求める
・国家公務員も労働基準法の適用範囲とする
・若者向けのライブ配信サービス(YouTube/Facebook/インスタグラム/Twitter/SHOWROOM/ニコニコ動画等)で中継する(コメントや投票なども可能に)
・超党派による「国会改革」を実現するために、衆議院・参議院合同の「国会改革に関する両院協議会」を設置すること