【インタビュー】「グランツーリスモ7」クリエイター山内一典氏インタビュー - GAME Watch

ナンバリングを意識したトレーラーの製作意図。山内氏「『GT7』は『GT SPORT』を“含んでいる”」

――先日公開されたトレーラーはナンバリングタイトルを強く意識した内容になっていて、率直に言って感動しました。クルマ、そしてカーカルチャーに対する底知れないリスペクトが感じられる、心が震えるトレーラーだったと思います。このトレーラーの意図と想いについて聞かせて下さい。

山内氏:ありがとうございます。そうですね。今回の「GT7」は、2つの異なるユーザーに向けて作っています。1つは、これまで25年間の歴史がありますが、そのシリーズを支えてくださった皆さんにとって最良と思って貰えるようなタイトルにすること。あともう1つは、25年前と今とでは、新しいカーエンスージアストだったり、新しいカーファンを生み出す社会的な環境がほとんどなくなっているということです。

 150年も続いている自動車の文化をゼロから説明して、新しいクルマファンを増やすという数少ない機会の1つが「グランツーリスモ」だと思ってこれまで開発してきました。その自動車文化に対しての、あるいは自動車産業に対しての責任感みたいなものももの凄く強くありました。

 ですが、この2つは実は両立させることが難しかったりするんです。初めてクルマを知る人にとっては、サンゴーロク(ポルシェ356)といっても何のことかわからないし、アイスリー(BMW i3)といってもなんだか分からない。ゼット(フェアレディZ)でもそうです。でもこういうことはどこかで説明しなきゃわからないものだし、その一方でシリーズのファンには、より高められたクオリティのもの、それはリアリティであったり、ゲームプレイの奥深さですよね。といったものを提供しなければいけない。その2つの融合が、「GT7」の大きなチャレンジでした。

 先ほど「自動車文化へのリスペクトが感じられた」と仰いましたが、まさにそうなんです。自動車文化へのリスペクトであると同時に大変なる責任感を持って作っています。

――「GT7」はPS5に最適化されているところが最大の特徴と言えますが、グラフィックスに対するチャレンジについて教えて下さい。

山内氏:PS5というビデオゲームコンソールはとても作りやすくて、僕らは表現に注力することができました。それからPS5のグラフィックスの特徴であるレイトレーシングについて、ああいったテクノロジーがもっとも有効に作用するのが実はクルマなんです。クルマってもの凄くグロッシーでツヤツヤしたものですよね。ガラス、塗装、ラジエーターグリルであったり、クロームメッキであったり、そのようなものばかりが合わさったプロダクトって実は世の中にそんなにないんです。比較対象が静かな水面や、窓ガラスとか、そういうものになってしまって、あんなにピカピカしたものってそんなにないんですよね。だからクルマは、レイトレーシングにとても合っています。

【「GT7」のグラフィックス】

――レイトレーシングは実装が楽しみですが、その一方でゲームファンが気になっているのは、レイトレーシングは大変処理が重いものなので、どこで利用できるのかというところだと思います。

山内氏:一応、ゲーム中でもリプレイではレイトレーシングを選べるようになっていて、それからステージデモ、ガレージではレイトレーシングが適用された絵を見ることができます。

――さすがに走行中は適用されませんか?

山内氏:そうなります。さすがに走行中は難しいですね。

【レイトレーシング】

――「グランツーリスモSPORT(以下、GT SPORT)」ではHDR表現に対して非常にこだわっていましたが、こちらはどうなりますか?

山内氏:実は「GT SPORT」でHDRはほぼやり尽くしてしまったんです(笑)。「GT7」では、その当時最先端だったものをそのまま引き継ぎます。

――ゲームのパフォーマンスについてこちらも大変気になるところですが、フレームレートをはじめ、どこまでチャレンジしているのか教えて下さい。

山内氏:まず、完全な4K/60fpsを実現しようと思っています。

――120fps表示については如何ですか?

山内氏:そのあたりについては、僕らも意識はしていますが、「GT7」リリース時点で120pをサポートする予定はありません。

――それは将来的には対応もありえるということでしょうか?

【インタビュー】「グランツーリスモ7」クリエイター山内一典氏インタビュー - GAME Watch

山内氏:そこはわからないです。僕らの開発や最適化がどこまでできるかに掛かっています。

――山内さんのお気持ちとしては如何ですか? チャレンジしたいのか、それとも今回はまだステイなのか。

山内氏:ちょっとわからないですね。僕の開発室では120pの絵は見られます。確かに今までとは違った体験になるのは間違いないです。ただ、120p対応のテレビもまだほとんどありませんし、「GT SPORT」を出したときに、HDR対応のテレビがほとんどなかったのと同じような状況なので、もう少し世の中の状況を見たいと思います。

――「GT」ファンが気になっているのは、ドライビングモデルがどうなるのか。たとえば、イギリスで行なわれた「GT SPORT」のアンヴェイルイベントでは、挙動が「GT6」から大きく変化して、プロ選手たちも最後まで対応しきれなかったと語っていたのが印象的でしたが、「GT7」ではどうなるのでしょうか?

山内氏:「GT SPORT」のロンドンイベントのフィジックスは、最終的に採用されたフィジックスと違ったはずです。「GT SPORT」のフィジックスはそれなりに妥当なものになっていたと思っていますが、「GT7」のフィジックスは、「GT SPORT」でワールドツアーをやるようになって、イゴール・フラガ(ブラジルのレーシングドライバー/eスポーツアスリート)のように、リアルのレーサーでありながら、「GT SPORT」のトッププレーヤーでもある彼らがファミリーに加わってくれたことで、これまで以上に正確であると同時に、“自然なフィール”になっていると思います。ですから、運転するのが凄く楽しくなっているはずです。

――それは結果として「GT SPORT」から、また少し挙動が変わっているという理解でいいのでしょうか?

山内氏:はい、変わります。もっと直感的で自然なものになります。

――DualSenseへの対応も注目点ですが、どのような使い方をされるのでしょうか?

山内氏:DualSenseの効果というのは、アダプティブトリガーによるABS振動のようなギミックもあるのですけど、何より重要なのはスティックの精度が格段に上がったことで、ステアリング並みに繊細な運転が可能になったと言うことです。そこはこれまでとの大きな違いですね。アダプティブトリガーやハプティックフィードバックといった機能はひととおり使っています。

――どのような体験が可能になるのか、もう少し詳しく教えていただけませんか?

山内氏:そうですねぇ(笑)。路面の状態であるとか、サーフェスのざらざら感、ゴツゴツ感であるとか、そういったものが自然に感じられるということと、あとは先ほどスティックのお話しをしましたけど、“一段良いクルマ”に乗っている感じがすると思いますよ。

――そして今回はPS4でも発売されるのが特徴です。PS4ユーザーにとっては嬉しい発表だったと思いますが、PS4版はどこまでPS5に迫れるのか教えて下さい。

山内氏:フィーチャーとしては同じです。PS5とPS4で同じものが楽しめます。違いはクオリティですね。グラフィックスやサウンドのクオリティが、やはりPS5のほうがピークは高いということになります。そして“体験”として圧倒的に違うのはロード時間でしょうね。

――なるほど、どれぐらい違うものでしょうか?

山内氏:PS5でプレイすると事実上、ローディングは感じません。

――おお! PS4だと、現在の「GT SPORT」ぐらいのローディングが発生すると?

山内氏:そうですね。1分ぐらいは掛かってしまうと思います。

――それがPS5だと実質ゼロですか?

山内氏:実際には1秒ぐらい掛かっていると思いますが、ローディングしている感覚はないと思います。

――「GT SPORT」から学んだことと、そこから「GT7」に影響を与えた部分というのはどのあたりでしょうか?

山内氏:「GT SPORT」というのは、「GT」でコンペティションが行なわれた場合にいったいどういう風景を生み出すのか、ということを僕らが学んだタイトルです。そこではたくさんの発見がありました。たとえば、中継を見て心が揺さぶられるとか、そういう経験をしました。「GT SPORT」でできることは、すべて最初からできるようになっています。かつ、ユーザビリティの部分。たとえばスポーツモードのユーザビリティであるとか、ネットワークの信頼性、リライアビリティ、そういったものが向上しています。

――なるほど、「GT SPORT」のコンペティション回りの要素はすべて「GT7」に入っているわけですね。

山内氏:そうです。「GT7」は、「GT SPORT」を含んでいます。

――「GT SPORT」を含んでいるというのは象徴的な言葉ですね。よくわかりました。

【FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ】FIA(国際自動車連盟)のオフィシャルイベントとして「GT SPORT」で実現した取り組みが「FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ」。この流れは「GT7」に受け継がれていくようだ

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