Gamebusines.jp、インサイドをご覧のみなさま、こんにちは!今回は、前回に引き続き『蟲姫』というコミックコンテンツを題材にして制作された全天球VR動画コンテンツ(以下、『VR蟲姫』)について、開発元である株式会社ファンタジスタの高野寛嗣さんとの対談をお届けします。前編をまだご覧になっていない方は、ぜひご一読のほど宜しくお願いします。【ありブラ vol.23] 360 ° Full -sphere horror experience "VR Mushihime" Development secret story (Part 1) The content of all natural sphere VR videos with few cases is developed by fumbling while repeating trial and error both in terms of content."VR Mushihime" that said.Moreover, it is not just an all -sky ball video, but the "alpha movie function" that only Sofdec2 has a unique worldview and unique UI/UX.Then, "Thank you, black box" abbreviated for "Aro Bra", this week is also starting!I hope you can relax and enjoy it.
ゲームからヒントを得た「映像の2層化」というチャレンジ
インタビュー対談形式にてお届け致します。高野 寛嗣 氏株式会社ファンタジスタ取締役 メディア事業部 部長聞き手:幅 朝徳(CRI・ミドルウェア)幅朝徳(以下、幅):さまざまな演出手法を試行錯誤していくことで発見した、
VRコンテンツ特有のユーザ体験上の「法則」があるとのことですが、それはどんなものですか?高野寛嗣(以下、高野):VRが扱う3D空間には ”正面” という概念が希薄なので、
ユーザの視線を誘導してあげないと、「特定の視野で発生しているイベントに気付いてもらえない」という点です。とあるVRコンテンツを体験していて実際に私が体験したことなのですが、ひとしきりコンテンツが終わった後、画面上にまったく変化が無くなってしまったことがありました。「あれ?終わったのかな?」と思ったら、実は、自分が見ていた方向とは違う場所でエンドロールが流れていたんです。他のユーザが体験する様子も観察していたのですが、やっぱり同じような状況に陥っていました。この体験を通じて、
「映像を2層構造にしよう!」と思いついたわけです。幅:2層構造、ですか?高野:はい。ゲームの世界ではすでに一般的な手法です。例えば格闘ゲームなんかもそうですが、実際にプレイしているキャラクターやステージとは別に、体力ゲージなどの情報が(ユーザから見て)手前側に固定表示されていますよね。アレのことです。ゲームで受け入れられている表現なのだから、VRでそれをやっても良いはずだ、と。でも、その全てを3Dで実現するとかなりの作業量とコストになってしまう。そこで参考にしたのが、いわゆる「ノベルゲーム」です。
背景画像は使い回し、前面のキャラクターだけを入れ替える、という手法です。これをVRで試している事例があるかどうか調べてみたら、無かったんですよね。そこで「これだ!」と。VRが現在置かれている状況って、プレイステーションやセガサターンが登場した頃とまさに同じだと思っています。
ゲームの多くが、ゲームパートとムービーパートから構成されていた時代です。ハイポリゴンのプリレンダリングムービー部分と、ローポリゴンのリアルタイムレンダリング部分です。VRに関しては、ゲーム部分に挑戦されている企業はけっこう多いですが、ムービー部分って実は手付かずなので、ファンタジスタとしては、そこで小さな成功を積み重ねていければと思っています。
全天球動画+視線追従型アルファムービー
幅:2層構造を実現するにあたって、技術面を詳しく教えて頂けますか?高野:はい。全天球側と手前側の2層に分けてそれぞれ別のムービーを同時再生する必要があるので、
パフォーマンスに優れた動画再生システムが必要になります。また、手前側の
動画データをアルファチャンネル(透明値情報)で抜くための技術も必須です。今作ではUnityを採用したので、まずはUnityアセットストア内で該当するプラグインがあるかどうか探してみました。3~4種類くらいのプラグインを実際に入手して試してみたのですが、結果は、、、全滅でした。幅:どのような点でNGだったのでしょうか?高野:綺麗に(アルファチャンネルが)抜けないんですよ。画像のエッジにフリンジが残ってしまうんです。しかも、負荷が高すぎて使い物になりませんでした。負荷を下げるために動画素材をかなりキツめに圧縮しなくてはならなくて、ブロックノイズが出まくりという状態(汗)。打つ手がなく困り果てていたところ、当社のとあるスタッフがCRIさんの技術セミナーに参加していたことを思い出しました。幅:えっ!?どのセミナーでしょうか?高野:昨年6月に開催された「CRIのデザイナーが教える アルファムービー作成講座」というものです。
「簡単にアルファムービーが作れるし、クオリティもすごく高い!」って、参加したスタッフが興奮気味に報告してきたんです。幅:あっ!確かに、ファンタジスタさんの方が参加されていましたね、覚えています。通常、CRIのセミナーってプログラマーやサウンドデザイナー向けに行うことがほとんどなのですが…。当社デザイナーの櫛部とも相談して、実験的な試みとしてCGデザイナーさん向けのセミナーをやろう!ということになったんです。CRIにとっても初めての試みでした。ご参考:セミナー告知ページhttps://www.facebook.com/events/1379606372328274/ご参考:セミナーレジュメ(by SlideShare)http://www.slideshare.net/tomonorihaba/cri-613高野:そうだったんですね!そうした経緯で「Sofdec2」というミドルウェアと出会い、実際に試してみよう、ということになりました。さっそくCRIさんの営業窓口に連絡し、打ち合わせを行いました。VRでの採用事例がまだ無かったこともあり、当社の要望をお伝えしたところ、かなり不思議そうな表情をされていたのを覚えています(笑)。「いったいこの会社は何をやろうとしているんだろう?」的な感じで。当初、「利用用途が特殊なので、技術サポートはベストエフォートになります」と言われてしまったのですが、こちらも他に選択肢が無い状態だったので「それでもいいので、ぜひ使わせて下さい!」とお伝えしました。幅:スミマセン(汗)。高野:いえいえ(笑)。実際にSofdec2を試してみてすぐに実感しましたが、他の技術と比べても、パフォーマンスとクオリティは群を抜いていました。「これは使えそうだ!」ということが判明したので、次はさまざまな解像度とフレームレートの組み合わせを試していきました。実は、自社内に“エンコ厨”(=動画のエンコードに長けている人物の俗称)のスタッフがいるので、Sofdec2 のエンコーダーは徹底的に使い倒しました。いろいろとパラメータを設定しつつ、最終的な画質を追い込んでいきました。その結果、全天球側に貼付する動画は2K相当(2048 x 1024, 25fps)、手前側に表示するアルファムービーは正方形の1K動画(1024 x 1024, 25fps)という形に落ち着きました。もちろん
音声部分はADX2を使っています。今回、立体音響は実装していないのですが、今後のために、内部的には拡張性を持たせた作りになっています。MP3で実装していたときはAV同期に課題があったのですが、Sofdec2とADX2にしてから随分改善しました。というわけで、ミドルウェアという強力な武器もあり、
当初予定どおりの今年の3月に間に合う形で、最終版として完成させることができました。
VR蟲姫へのユーザの反応
「蟲姫」コミック第1巻の発売を記念して、7月26日に新宿にある圓福寺というお寺で開催された「蟲姫 ホラーナイト」というイベントが、「VR蟲姫」の初お披露目の機会になりました。ご参考:蟲姫 ホラーナイト 告知ページ(開催終了)http://mushihime.hokazono-masaya.com/night/幅:体験者の反応はどうでしたか?高野:「おおっ、すげー!!」っていう分かりやすい反応を示してくれる方と、淡々と冷静にコンテンツを観賞する方と、大きく2つに分かれました。このイベントのときは、後者の方が実は多かったです。初めての体験なので、どう反応していいか分からない、というのが正直なところかもしれません。体験して頂く際も「全周囲を見渡せる作品なので、開始したらキョロキョロと首を動かしていろんな場所を見てみてくださいね!」と説明しても、
始まったとたんに微動だにせずピタッと固まってしまったりする方も多くて(笑)。ユーザというのは、そう簡単にはVRの世界に馴染めないんだなぁということが分かりました。でも、これって蟲姫だけじゃないんですよね。OcuFes等のVR系イベントで来場者の反応を見ても、けっこう同じような反応をしている方って少なくないんです。幅:怖いんですかね?高野:怖いというよりも、どうしていいのか分からないのだと思います。現状のコンテンツにはキョロキョロする必然性がないというのも理由のひとつかもしれません。現実世界でも、実はキョロキョロする必要のあるシチュエーションってそんなに無いんですよね。運転中に右折したいから右を見る、というように、
目的意識がある場合は分かりやすいですが、無意味に見回したりはしないんです。だから、
VRゴーグルを被ったからといって、キョロキョロしてくれるとは限らないわけです。
「振り向かせる工夫」、あるいは、「振り向かせなくてもよい工夫」というのが必要になってくると思います。筆者補足:「VR蟲姫」では、手前側の動画(アルファムービー)がゴーグル視点に追従するようになっている。つまり、全天球動画のどの方向を向いていても、アルファムービーが目の前に表示されるようになっている。幅:蟲姫の原作者さんにとっても、今回のようなVRって初めての試みだと思いますが…高野:提案段階ではまだモノがない状態でしたので、VRについて丁寧に説明しました。パノラマ動画がどういうものかについても、RICOHさんのTHETAを使って実際にその場で撮影してみて、どんなふうに見えるかをお伝えしたりしました。CGのクオリティについてはファンタジスタのポートフォリオを見せて、安心して頂きました。原作の外薗昌也先生が新しいもの好きな方でしたので、スムーズに話が進みましたね。幅:VR蟲姫はどのような利用を想定して作られたのでしょうか?高野:もともとは、書籍やコミックの新しいプロモーション手法として提案していくことを想定していました。電車内などでよく目にする動画広告の延長上として、作品の世界観の中に入り込めるようなものに仕上げてみよう、と。しかもそれが、書店に実際に出向かないと体験できないものなので、書店への導線になる。これが、DNPさんとの間での当初の共同研究テーマでした。諸事情あり、実際の書店にはまだ置かれていないのですが、その分、OcuFesや蟲姫 ホラーナイトといったイベントで露出し、多くの反響を頂いています。まだ実現できていませんが、
Cardboardやハコスコのような、スマホ向けVRもぜひやっていきたいと思っています。
書籍のオマケとしてフィギュアを付けるのと同じ感覚で、スマホで体験できるVRを提供するのも面白そうです。もう少し待てば、スマホのスペック的にもそれが実現しやすい環境になると思います。実は、CRIWAREを選んだ理由もそこにあります。Unityのアセットストアにあるプラグインの多くは、サポートしているプラットフォームが限定的です。iOSには対応しているけれどAndroidには非対応だったり、またはその逆だったり。その点で、
CRIWAREのカバレッジはとても広いので、コンテンツに拡張性を持たせることができますからね。プラットフォームごとにテクノロジーを使い分けるのはとても面倒なので、この点はとても重要です。
ビジネス的な視点では、VRの主戦場は「スマホ」だと思っています。エンドユーザにOculusの環境一式を用意してもらうのも、あまり現実的ではないと思いますから。自分がすでに持っているスマホに加えて、数千円の追加投資で体験できるのであれば、VRはもっと普及し、ユーザにも受け入れられていくはずだと確信しています。VR蟲姫がきっかけとなって、もっとVR業界にもCRWAREが広がっていくと良いなぁと思います。幅:VR蟲姫のプロジェクト体制について教えて下さい。高野:デザイナー3名、プログラマー1名、コンテンツディレクター1名、エンコード技術者1名、プロデューサーの私を含め、合計6名になります。企画段階も入れると、開発期間は昨年7月から今年の3月までの約9ヶ月間となります。
今後の展開
幅:今後の展開について教えて下さい。高野:まずは、
「VR蟲姫」のiOS、Android版をやりたいですね。その理由は、先ほどお伝えしたとおりです。それから、
プロモーションツールとしてのVRに興味を持って頂けるクライアントさんが見つかると良いなぁと思っています。クリエイティブ面では、次回は
インタラクティブ的な要素を入れてみたいです。すでにいくつかアイディアはあるんですが、まだ内緒です(笑)。ヒントは、ゲームのこれまでの歴史のなかにあったりします。幅:すごく気になります(笑)、楽しみにしています!高野:ありがとうございます。幅:最後に、この記事をお読みになっているVRコンテンツのクリエイターや開発者に向けてメッセージをお願いします。高野:商用/非商用を問わず、
せっかく作ったVRコンテンツはできるだけ世の中に公開していって欲しいです。必ずしもプラスの反応だけではないかもしれませんが、そこには絶対に「気付き」があります。VRが置かれている現状は、企業や組織というよりもクリエイター個々人の孤軍奮闘によるものが大きいと思います。だからこそ、切磋琢磨が大事なのではないかと。VRは、「やるか?やらないか?」ではなくて、とにかく「やる!」ことが大事です。
やってみて初めて分かることだらけなので、「創って出すこと」がスタートになります。あと、結構深刻なのが「酔い」の問題なんです。私自身、実はかなり酔いやすい体質なんです。ジェットコースター系のVRは全部苦手でして(笑)。だからこそ、VR蟲姫はカメラが固定なんです。すでに多くの方が仰っていますが、
VRの酔いの問題はしっかりと向き合って欲しいですね。全天球動画やアルファムービー技術を活用したVRコンテンツに興味がある企業さまには、ぜひお問い合わせ頂ければと思います。まずは、VR蟲姫をぜひご体験頂ければと思います。スマホ版はまだ無いので、東京と名古屋にあるマウスコンピューター(注:Oculus対応のPCであるG-Tuneを製造販売しているPCメーカー)さんのショウルームでご体験頂ければと思います。G-Tune:Garage 住所:〒101-0021 東京都千代田区外神田3-13-7営業時間:11時00分~19時30分 ※年中無休(指定日を除く)マウスコンピューター 名古屋ダイレクトショップ 住所:〒460-0011 愛知県名古屋市中区大須3丁目12-35(グッドウィルEDM本店2Bフロア)営業時間:11時00分~19時30分※2015年10月現在の情報です。幅:高野さん、ありがとうございました!…さて、今週の「ありブラ」はここまで。それでは、また次回の更新でお会いしましょう!【ありブラ公式facebook】最新記事の更新情報や、記事には書けなかったウラ話、はみだしコラムなど、『ありブラ』に関する情報を随時更新中。ページに「いいね!」をして頂くだけで、つねに最新の情報をアナタのfacebookのタイムラインにお届けします!
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