特許から見るデジタルセラピューティクス(DTx)(アスキー) - Yahoo!ニュース
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スタートアップと知財の距離を近づける取り組みを特許庁とコラボしているASCIIと、Tech企業をIP(知的財産)で支援するIPTech特許業務法人による本連載では、Techビジネスプレーヤーが知るべき知財のポイントをお届けします。2020年12月、CureAppの「CureApp SC」が国内で保険適用されました。治療用アプリが公的医療保険で使えるようになるのは初めてのことで、大きな注目を集めました。また、CureAppは、続く2022年の承認と保険適用を目指し、高血圧症に対する治療用アプリを2021年5月に薬事申請しています。このような流れを背景に、本稿では高齢化が進む日本において、生活習慣病、慢性疾患等の対策として、今後の拡大が期待されるデジタル治療(Digital Therapeutics: DTx)について取り上げます。 目次Digital Therapeutics:DTxとは国内外での著名なDTxをチェック日本で広がる開発中のDTxDTxと特許の組み合わせによって得られるメリットCureApp、サスメド、Save Medicalのそれぞれの知財戦略DTxにおける今後の特許戦略の将来Digital Therapeutics:DTxとは 実は日本において、「DTx」が何を表すか、厳密には規定されていません。医療機器としてコンピュータープログラムが加えられたのは、2014年11月の薬機法改正からです。どのようなプログラムが医療機器プログラムに該当するかは、2021年3月に厚生労働省により策定された「プログラムの医療機器該当性に関するガイドライン」で記載されています。当該ガイドラインによれば、医療機器プログラムは、医療機器の定義に該当する使用目的を有する、①インストール等することで、汎用コンピュータ等に医療機器としての機能を与えるもの、又は、②有体物である医療機器と組み合わせて使用するものと記載されています。しかしながら、当該ガイドラインでは、DTxについての定義はありません。DTxそのものについては、2017年に設立された、⽶国のデジタル治療提供企業の業界団体であるDigital Therapeutics Alliance(以下、DTA)によりわかりやすく定義されています。DTAによると、DTxは、「医学的疾患や疾病の予防、管理、治療のために、エビデンスに基づく治療的介入を行うもの」と定義されています。近年普及し始めている健康増進を目的としたアプリや、ウェルネスアプリ等のデジタルヘルスとは、”エビデンスに基づく治療的介入を行うという観点”において異なるものとなっています。広義での「デジタルヘルス」に係る製品は、医療機器としての規制上の定義を満たす必要はありませんが、「DTx」に係る製品は、リスク、有効性、使用目的などの製品の主張を裏付けるために、必要に応じて規制機関の審査を受け、許可または認証を受ける必要があります。 国内外での著名なDTxをチェック・BlueStar(Welldoc社) 最初に紹介するのは、糖尿病患者の治療を補助するアプリケーション「BlueStar」です。世界初のDTxであり、アメリカでの治験で治療効果が実証され、2010年にアメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)から承認されました。BlueStarは、スマートフォン、またはタブレット端末にインストールされて糖尿病患者に利用されます。日々の血糖値等を入力すると、データに基づき、バランスの良い食事を促すメッセージや、運動を促すメッセージ等が患者に与えられます。通院治療と並行してBlueStarを利用することで、定期的な医師からの指導に加え、継続的な自己管理が可能となります。まだ日本では事業化されていませんが、2019年からアステラス製薬が日本での商業化を目指している最中です。2022年3月までに治験入りする予定となっています。 ・AKL-T01(米国製品名:EndeavourRx)(Akili社) 続いては、8~12 歳の⼩児の注意欠如・多動症(ADHD)に対するゲームベースのアプリケーション「AKL-T01」です。AKL-T01は、2020年にFDAから承認され、世界初のベームベースのDTxとなりました。AKL-T01は、スマートフォンやタブレット上で操作するゲーム形式の治療法であり、認知機能において重要な役割を果たすとされる脳の前頭前野を活性化するように設計されています。治療セッションを完了した患者の進捗状況を秒単位で監視し、各患者に最適なレベルの課題を継続的に与え、患者のパフォーマンス向上を促します。こちらも日本では事業化されていませんが、2019年から塩野義製薬が国内商用化を目指している最中です。現在、薬事承認を目指して治験進行中となっています。 ・CureApp SCニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカー(CureApp社) 前述したCureAppによる日本初の薬事承認ならびに保険適用を受けた製品です。ニコチン依存症の心理的依存にアプリを通じてアプローチし、患者の考え方や行動を正しく変容することで正しい生活習慣に導き治療するデジタル療法です。同製品は、2020年6月に治療用アプリとして国内初の薬事承認を取得しました。アジア初のDTxであり、ニコチン依存症の治療を補助するアプリとしては、世界初の承認でした。そして、2020年の11月に、厚生労働省の中央社会保険医療協議会(中医協)で、公的医療保険の適用対象として認められました。2022年1月においても、保険適用される唯一のアプリとなっています。CureApp SCニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカーは、患者が治療経過等を記録する「患者アプリ」、患者が自分で呼気中の一酸化炭素濃度を測定する「COチェッカー」、医師が患者の状況を把握できる「医師アプリ」から構成されます。患者は、患者アプリに、自身の治療状況と、COチェッカーにより測定された一酸化炭素濃度を入力します。すると、患者アプリを介し、自身に最適化された治療介入が行われます。また、医師は、医師アプリにより、患者アプリで得られる日々の経過を確認することができるため、患者に対し適切な治療方針を策定できます。 日本で広がる開発中のDTx CureApp社は、CureApp SCニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカーの第2弾として、2021年5月に高血圧症治療用アプリを疾患治療用プログラム医療機器として薬事申請しました。2022年の薬事承認と保険適用を目指しています。 ・不眠症治療用アプリ(サスメド社) サスメド社は、認知行動療法をベースとした不眠症の治療用アプリを開発しています。病院における不眠症の治療は、睡眠薬を処方することが一般的です。しかしながら、睡眠薬の服用は、依存症等の副作用もあり、根本的な治療には結び付きにくいと言われています。有効な治療法として、医師のカウンセリングや睡眠に関する定期的な記録を通じて患者の生活習慣を変化させる「認知行動療法」があります。サスメド社の治療用アプリは、この「認知行動療法」を利用しています。薬事承認申請のための検証的試験が、2021年11月に、主要評価項目の達成という結果で終了しました。現在、薬事承認申請の準備中となっています。また、2021年12月27日に、本アプリの日本における独占的販売権を塩野義製薬が獲得したことを発表しました。 ・糖尿病管理指導用モバイルアプリケーション(Save Medical社) Save Medical社は、糖尿病患者の治療を支援する治療用アプリを開発しています。当該アプリでは、糖尿病の非薬物療法の基本である生活習慣(食事・運動・体重)や指標(服薬・血圧・血糖値)等を患者自身がアプリに入力します。入力された情報に応じ、アプリからは行動変容の支援となるようなメッセージが自動で患者へ送信されます。患者個々人への適切なフォローにより、外来と外来の間の期間に生じる生活習慣の乱れや服薬不良への行動認知が高まり、行動変容が促されることで、臨床的指標が改善されます。Save Medical社は、2型糖尿病を対象に、本アプリの有効性及び安全性を評価することを目的とした臨床試験を2020年8月に開始しました。2022年度中の承認取得を目指しています。 DTxと特許の組み合わせによって得られるメリット DTxとなるためには、治験により医学的エビデンスを取得し、医療機器として薬事承認される必要があります。そして、保険適用が認められるには、厚生労働省の中医協で、公的医療保険の適用対象として認められる必要があります。治療用アプリを開発し、臨床試験を実施し、薬事承認を取得するまで、およそ5~6年かかり、その費用はおよそ数億から数十億円ほどかかるとの試算があります。このように、DTxとして承認されるには、長い期間と大きな費用が必要です。現状において日本で薬事承認を取得できた治療用アプリは、CureApp社のCureApp SCのみであり、どのようにすれば薬事承認を取得できるのか知見が広がっているわけではありません。そのため、薬事承認を取得できれば、特許を取得していなくても、競合企業に対して有利な立場を取ることが可能です。しかし、特許を取得しておけば、さらに有利な立場をとることが可能です。例えば、同様のアプローチによる治療支援を他社が実施することはできません。また、後発品の承認手続きにおいて、先発品に係る特許権の侵害性を考慮するという、いわゆるパテントリンケージにより、同様のアプローチによる薬事承認を取得することができません。このとき後発他社は、同じ疾患の治療を支援するための治療用アプリであっても、異なるアプローチを用いた治療を開発して別途臨床試験を実施し、薬事承認を取得する必要があります。一方、特許を取得していなければ、同様のアプローチで他社も薬事承認の取得に挑戦できます。時間と費用はかかりますが、他社も薬事承認を取得できるかもしれません。このように、特許を取得することで、他社に対して一からのアプリ開発を強いることが可能となり、有利な立場でいられる期間を伸ばすことが可能となります。治療用アプリがDTxとして認められた場合、その治療用アプリの実装と対応した特許を有していれば、他社に対して競争優位な状況を長く維持することが可能となります。以下、日本の企業であるCureApp社、サスメド社、Save Medical社の知財について見ていきます。なお、海外において実績がある企業が、国内の製薬大手と組んで治療用アプリの開発を進めていますが、海外企業は、すでに外国での特許権を取得しているため、ここでは説明を割愛します。 CureApp、サスメド、Save Medicalのそれぞれの知財戦略・CureApp社 禁煙患者のためのプログラムに関する特許:特許6116769、特許6339298特許6116769は、2015年5月1日に出願され、2017年3月31日に登録されました。本件は、中国、欧州、香港、アメリカへも出願されており、アメリカで特許となっています。また、特許6339298は、2017年4月20日に出願され、2018年5月18日に登録されました。本件は、中国、欧州、アメリカへも出願されており、アメリカで特許となっています。以下、それぞれ請求項1の記載を確認します。 特許6116769【請求項1】 禁煙患者のために使用されるプログラムであって、コンピュータに、 患者が使用する電子装置である患者側電子装置から、患者の現在の体調を示す情報の入力及び禁煙診療履歴情報の少なくとも一方に基づいて決定される患者解釈情報取得タイミングで、患者によって前記患者側電子装置に入力された、喫煙に関連する事項についての患者の解釈を示す患者解釈情報を受信する段階と、 受信された前記患者解釈情報と前記喫煙に関連する事項についての正答情報とを比較して、前記患者の喫煙に関連する事項についての解釈が誤りであるか否かを決定する段階と、 前記患者の解釈が誤りであると決定された場合には、前記正答情報に基づいて、前記患者の喫煙に関連する事項についての誤った解釈を正すための情報を含む認知行動療法情報を前記患者側電子装置へ送信する段階と、 を実行させるプログラム。特許6339298【請求項1】 禁煙患者のために使用されるプログラムであって、コンピュータに、 患者によって入力された喫煙の有無を示す申告情報を受信する段階と、 喫煙状態を示す生体指標の濃度を測定する生体指標濃度測定器によって測定された前記患者の生体試料の生体指標濃度測定値を受信する段階と、 前記生体指標濃度測定値及び生体指標濃度基準値に基づいて、前記生体指標濃度測定値と前記申告情報との整合性を判定する整合性判定段階と、 整合性判定結果に基づいて、前記患者に対して実行する禁煙治療法のための禁煙治療情報を生成する段階と、 前記生成された禁煙治療情報を患者側装置に送信する段階と、 を実行させるプログラム。 CureApp SCニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカーでは、 患者アプリは、COチェッカーを用いて測定された呼気一酸化炭素濃度の測定結果、患者が入力した喫煙状況、患者アプリからの質問に対する応答内容等に基づき、ニコチン依存症の理解及び禁煙に関する行動変容の定着を促すメッセージ、動画等を提供するようにしています。特許6116769では、「患者アプリからの質問に対する応答内容に基づき、ニコチン依存症の理解を促すメッセージ、動画等を提供」することが記載されており、特許6339298では、「CO チェッカーを用いて測定された呼気一酸化炭素濃度の測定結果、患者が入力した喫煙状況に基づき、禁煙に関する行動変容の定着を促すメッセージ、動画等を提供する」ことが記載されています。CureApp SCニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカーで実装されている機能は、特許6116769、特許6339298により、保護されていることがわかります。また、CureApp社は同様の特許をアメリカでも取得しています。まだFDAからの承認は出ていませんが、米国子会社も存在しており、FDAへの薬事申請を日本オフィスと連携しながら進めています。米国でも薬事承認を取得し、特許を取得することで、米国においても事業を優位に進めるようにしています。このほか、CureApp社では、健康関連情報管理のためのプログラム、及び肥満患者のためのプログラム等の特許についても別途保有しています。また同社は「治療アプリ」について2016年1月22日に商標登録を受け、「処方アプリ」について2017年1月13日に商標登録を受け、「~治療アプリ」について、2021年に複数の商標登録を受けています。商標も利用して優位な立場を築こうとする姿勢が伺えます。 ・サスメド社 不眠症治療支援装置に関する特許:特許6245781、特許6928413特許6245781は、2016年10月11日に出願され、2017年11月24日に登録されました。本件は、中国、欧州、韓国、メキシコ、アメリカへも出願されており、韓国、アメリカで特許となっています。また、特許6928413は、2021年3月9日に出願され、2021年8月11日に登録されました。それぞれ請求項1の記載を確認します。 特許6245781【請求項1】 ユーザの就寝時刻、入眠時刻、覚醒時刻、起床時刻に関する情報に基づいて、上記ユーザの睡眠効率を算出する睡眠効率算出部と、 上記睡眠効率算出部により算出される上記睡眠効率に基づいて、上記ユーザの就寝時刻および当該就寝時刻より第1所定時間前における眠気テストの実施時刻を設定する時刻設定部と、 上記時刻設定部により設定された実施時刻またはそれより第2所定時間前もしくは後の時刻になったときに、上記眠気テストの実施を促すメッセージを上記ユーザに提示する催告メッセージ提示部とを備えたことを特徴とする不眠症治療支援装置。特許6928413【請求項1】 ユーザの就寝時刻、入眠時刻、覚醒時刻、起床時刻を示す情報に基づいて、上記ユーザの睡眠効率を算出する睡眠効率算出部と、 上記睡眠効率算出部により算出される上記睡眠効率に基づいて、目標の就寝時刻を設定して上記ユーザに通知する就寝時刻設定部と、 上記就寝時刻設定部により設定された目標の就寝時刻を上記ユーザが所定期間内において遵守しているか否かの状況を表す遵守状況指標値を算出する遵守状況指標値算出部とを備え、 上記就寝時刻設定部は、上記睡眠効率算出部により算出された上記睡眠効率が第1所定値未満であり、かつ、上記遵守状況指標値算出部により算出された上記遵守状況指標値が閾値以上の場合、前回設定された就寝時刻よりも遅い時刻を次回の就寝時刻に設定し、上記睡眠効率算出部により算出された上記睡眠効率が上記第1所定値未満であり、かつ、上記遵守状況指標値算出部により算出された上記遵守状況指標値が上記閾値未満の場合、前回設定された就寝時刻と同じ時刻を次回の就寝時刻に設定し、上記睡眠効率算出部により算出された上記睡眠効率が第2所定値以上の場合、前回設定された就寝時刻よりも早い時刻を次回の就寝時刻に設定する ことを特徴とする不眠症治療支援装置。 こちらは、ベッド等の寝床にいる全体の時間のうち、実際に眠れている時間の割合を表す「睡眠効率」に基づき、就寝時刻を調整することで、患者の行動変容を促し、不眠症を解消する発明となっています。具体的には、特許6245781では、睡眠効率に基づいて就寝時刻と、眠気テストの実施時刻を設定するようにしています。また、特許6928413では、設定した就寝時刻を遵守できたかに基づいて就寝時刻をより詳細に設定するようにしています。臨床試験において有意性と安全性が認められた機能がどのようなものか、明確に把握することはまだできませんが、出願と登録のタイミングを考慮すると、特許6928413の内容まで含まれていると考えられます。このことから、サスメド社が薬事承認を取得しようとしている機能は、特許6245781、特許6928413により、特許として保護されていると予想できます。また、FDAへの薬事申請がされているかの情報はまだありませんが、米国においても特許を取得していることを参照すると、将来的な申請を目指しているかもしれません。なお、サスメド社は、不眠症治療支援装置に関する特許以外にも、事業の柱である「治療用アプリの開発」と、「臨床試験の効率化推進」について、事業毎に複数の特許を別途保有しています。 ・Save Medical社 ユーザーが手軽に生活習慣を改善できる情報処理装置:特許6810496特許6810496は、2020年7月27日に出願され、2020年12月15日に登録されました。請求項1の記載は以下のようになっています。 特許6810496【請求項1】 第1課題行動を提示する情報処理装置であって、 記憶部と、達成度選択部と、課題行動設定部と、を備え、 前記記憶部は、行動情報と、難易度情報と、カテゴリー情報とを対応付けて記憶し、 前記達成度選択部は、前記第1課題行動の達成度について、達成選択肢、再行動選択肢又は未達成選択肢を選択可能に構成され、 前記課題行動設定部は、前記達成度選択部において、 前記未達成選択肢が選択された場合、前記記憶部を参照して、前記第1課題行動よりも難易度の低い第2課題行動を設定し、 前記第1課題行動の難易度が最も低い場合、前記記憶部を参照して、異なるカテゴリーの第2課題行動を設定する、 情報処理装置。 第1課題行動、及び第2課題行動が概念的な記載となっていますので、特許明細書の記載から、それぞれがどのようなものかを確認します。特許明細書の段落【0016】によれば、「第1課題行動210とは、例えば、インスリン非依存糖尿病、肥満、高脂血症、高尿酸血症、循環器病、大腸がん、歯周病、肺扁平上皮がん、慢性気管支炎、肺気腫、アルコール性肝疾患等の生活習慣病について、生活習慣の改善につながる可能性のある課題行動のことである。当該課題行動は、食事、運動、喫煙、飲酒に関するものが含まれる。」と記載されています。また、段落【0017】によれば、「第2課題行動は、上記の生活習慣病について、生活習慣の改善につながる可能性のある行動として、第1課題行動210の次に設定される課題行動のことである。当該課題行動は、食習慣に関するもの、運動習慣に関するもの、休養に関するもの、喫煙に関するもの、飲酒に関するもの、が含まれる。」と記載されています。特許6810496は、第1課題行動が達成できない場合、より容易な第2課題行動を設定し、第1課題行動が最も優しい場合、異なるカテゴリーの第2課題行動を設定することで、ユーザーの生活習慣を手軽に改善するようにしています。CureApp社や、サスメド社の特許からは、治療用アプリで実装される機能が把握できましたが、Save Medical社の特許からは治療用アプリの機能が把握しにくいと感じます。臨床試験では、有意性と安全性を証明しなければなりません。臨床試験がされている治療用アプリは、特許6810496で記載される課題行動設定部よりも厳密な設定がされている可能性があります。Save Medical社は、治療用アプリの実装に沿った内容の発明に関する出願を今後するのではないかと考えられます。 DTxにおける今後の特許戦略の将来 DTxがどれほどの市場規模に発展するか、現状において定かではありません。そのような状況下では、先行企業が薬事承認を取得し、特許を取得してしまえば、2番手の企業は、競争をためらうようになります。しかしながら、大きな市場があることがわかり、DTxにより収益を上げられることが明らかとなると、競合企業が生じ、先行企業が開発したアプリの改良を予測して特許を取得する可能性もゼロではありません。現状においては、治療用アプリの実装に沿った発明について特許を取得するようになっていますが、将来的には、治療用アプリを改良する方向についても特許を複数取得するようになるかもしれません。また、糖尿病や高血圧等の患者数が多い疾患を治療するための治療用アプリについては、市場が大きくなると期待でき、薬価を抑えられるため医療費削減といった社会要請にも対応しています。患者数が多い疾患の治療を支援するアプリについて、薬事承認の取得が可能であることが明らかとなったら、製薬大手も開発を進めると考えられ、さらに特許の取得が大切になってくると考えられます。医薬品業界では、1薬品1特許が一般的であり、特許の価値が非常に高いものとなっています。これに対し、スマートフォン等のITデバイスでは一つのプロダクトに複数の特許が関係することが多く、特許の価値、強さは、医薬品業界に比べ、相対的に弱くなっています。DTxでは、一つのDTxが一つの特許で保護されることもあるとは思いますが、必ずしも一対一で保護される必要はありません。先述したCureApp SCニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカーのように、複数の特許で一つのDTxが保護されることもあり得ます。DTxにおける特許の価値は、医薬品業界よりも低く、ITデバイスよりも高いものになりそうです。 著者紹介:IPTech特許業務法人 文● IPTech特許業務法人
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