固定電話の利用が減るなか、NTTドコモが「homeでんわ」を提供した背景

モバイル回線を通じて固定電話番号からの発着信ができるNTTドコモの「homeでんわ HP01」

固定電話の利用が減るなか、NTTドコモが「homeでんわ」を提供した背景

NTTドコモは2022年2月4日、モバイル回線を活用した固定電話サービス「homeでんわ」の提供を発表しました。携帯電話の普及で固定電話の利用が減りつつある時代にあって、なぜNTTドコモはhomeでんわを提供するに至ったのでしょうか。【画像】ソフトバンクは、homeでんわと同種のサービス「おうちのでんわ」を2017年より提供するなど、この分野ではNTTドコモよりも先行しているモバイル回線で固定電話の番号が使えるサービス2021年に、固定ブロードバンドの代替となる5G対応の通信サービス「home 5G」を投入し、話題となったNTTドコモ。そのNTTドコモが、同じく家庭内で利用する新たなサービス「homeでんわ」を2022年3月下旬より提供開始することを発表しました。これは、「03」などの市外局番から始まる固定電話の電話番号での音声通話受信や着信を、モバイル回線を利用してできるもの。モバイル回線を利用することから導入に工事などの必要がなく、homeでんわに対応する専用の機器「homeでんわ HP01」と、固定電話機を接続すれば利用できます。homeでんわの月額料金は、無料通話や付加機能が付かない「homeでんわ ライト」が月額1,078円、550円分の無料通話分と「通話中着信」「転送でんわ」などの付加機能が付く「homeでんわ ベーシック」が2,178円で、home 5Gとのセット契約による割引も用意されています。一方で、通話料は固定電話向けが3分8.8円、携帯電話向けが1分17.6円となり、緊急番号への発信は携帯電話番号による発信となるなど、モバイル回線を使うこともあって通常の固定電話とはやや仕組みが違う部分もあるようです。ただ、すでに携帯電話が1人1台以上にまで普及している現在、新たに固定回線を必要とするニーズがどこまであるのか?という点には疑問を抱く人もいることでしょう。実際、総務省が公開している令和2年版の「情報通信白書」では、固定電話の加入契約数は年々減少傾向が続いているようです。それにもかかわらず、なぜNTTドコモがhomeでんわを提供するに至ったのでしょうか。そこには、競合の存在が大きく影響しているようです。完全子会社化でサービスの“穴”を埋める実は、homeでんわと同様のサービスは他社からも提供されています。ソフトバンクは、LTE回線を用いて固定電話番号が使える「おうちのでんわ」というサービスを2017年より提供していますし、KDDIも同種のサービス「ホームプラス電話」などを提供しています。つまり、他社はモバイル回線を用いた固定ブロードバンドの代替サービスだけでなく、固定通話の代替サービスをセットで提供できる環境を以前から整えているのです。一方で、NTTドコモはhome 5Gで固定ブロードバンドの代替サービスの提供に至りましたが、固定電話の代替サービスは提供できておらず、固定回線からの乗り換えという意味では現状、他社サービスと比べ不足する部分があったのは事実です。実際、NTTドコモの親会社となる日本電信電話(NTT)の代表取締役社長である澤田淳氏も、2022年2月7日に実施した決算会見で、homeでんわの提供理由について「すでに他社はやっている」と話し、他社に顧客を取られないための施策であることを明らかにしています。ただ、NTTドコモがhomeでんわを提供するうえではもう1つ、NTT東日本とNTT西日本(NTT東西)が同じグループにいることを考慮する必要がありました。NTT東西は、ともに固定電話サービスを提供する企業ですので、homeでんわのようなサービスを提供してしまうと顧客を奪い合う競合になってしまうことから、NTTドコモはこれまで同種のサービスを提供してきませんでした。ただ、同じグループでもあるNTTドコモとNTT東西にとって、KDDIやソフトバンクは共通の“敵”でもあります。NTTドコモとNTT東西が身内での争いを避けるためにhomeでんわのようなサービスを提供できていなかったことが、他社にとっては顧客を奪う大きなチャンスとなり、NTT東西からの顧客流出へとつながっていたわけです。ですが、NTTドコモがNTTの完全子会社となった今となってはグループ内で競争する意味合いが薄れ、他社に顧客流出する方が問題の度合いは大きくなっています。そうしたことからNTTドコモは、NTTによる完全子会社化を機にNTT東西との調整を進め、これまで提供できていなかった固定回線の代替となるhome 5G、そしてhomeでんわを相次いで追加し、グループ全体での顧客流出を抑えつつ競合に対抗する構えを整えるに至ったといえます。しかも、home 5Gは2021年8月27日提供開始ながら、2021年12月末時点での契約数が19万に拡大、好調な伸びを見せていることから、セット契約で安価に利用できるhomeでんわも、その顧客基盤を生かして利用を伸ばしやすい環境にあります。澤田氏は固定電話など今後のラストワンマイル通信のあり方として、「利便性やコストを考えると、やはり無線が多くなる時代になるんだろうと考えている」と話していただけに、homeでんわは有線から無線への乗り換え需要を獲得する形で利用を大きく伸ばす可能性が高いと言えそうです。 佐野正弘福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。

佐野正弘

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